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医療法人の多店舗展開(分院展開) その役割・メリットと成功のための20のポイント

医療法人の分院展開ロードマップ

近年、複数のクリニックを展開する医療法人が増加しています。個人開業では一人の医師が開設できる診療所は原則一か所に限られますが、医療法人であれば複数の診療所を開設できるため、多店舗展開は法人化の大きなメリットの一つといえます。

分院展開は、地域医療への貢献と経営基盤の強化を同時に実現できる有力な成長戦略であり、いくつかのポイントを押さえて計画的に進めることで、その効果を最大限に引き出すことができます。

以下、多店舗展開する医療法人の役割・意義、メリット、進める際の注意点、そして成功に導く体制づくりについて、20のポイントに整理して解説します。

多店舗展開する医療法人の役割・意義

1.地域医療提供体制の面的カバー

複数の拠点を展開することで、一つのクリニックではカバーしきれない広い地域に医療を提供できます。
医師不足や後継者不在により医療機関が減少している地域に分院を開設すれば、医療空白地域を補完し、地域包括ケアシステムの担い手としての役割を果たすことができます。

→医療法人の多店舗展開 ポイント1:地域医療提供体制の面的カバー

2.かかりつけ医機能の広域展開と受診機会の拡大

本院で確立した診療スタイルや運営ノウハウを他地域でも再現し、同じ診療方針のクリニックを自宅や職場の近くなど通いやすい場所に展開することで、より多くの住民に身近で継続的な医療を届けることができます。
実証済みの診療モデルを横展開することにより、質の高いかかりつけ医機能を効率的に普及させることが可能となります。

3.勤務医のキャリアパス提供と医師定着

分院長というポストを創出することで、勤務医に対して診療だけでなく経営に参画する機会を提供できます。
将来の展望を示すことができれば、意欲ある医師の採用・定着につながり、法人と医師の双方にとって望ましいキャリア形成が実現します。

4.医療の標準化・質の均てん化

法人として統一した診療方針、検査・治療の手順、接遇基準を整備することで、どの拠点を受診しても同水準の医療サービスを提供できます。
属人的になりがちなクリニック医療において、組織として医療の質を担保する仕組みを構築できることは、多店舗展開する医療法人ならではの意義といえます。

5.事業承継の受け皿としての機能

後継者不在により閉院を検討している近隣のクリニックを法人が承継し、分院として存続させることができます。
地域の医療資源と患者のかかりつけ医を守るとともに、法人にとっては既存の患者基盤を引き継いだ効率的な拠点拡大となり、地域と法人の双方にメリットのある承継が実現します。

多店舗展開のメリット

6.経営基盤の安定化とリスク分散

単一拠点の経営では、近隣への競合出現や外部環境の変化が直ちに法人全体の経営に影響します。
複数拠点を展開することで収益源が分散され、環境変化に強い安定した経営基盤を構築できます。

7.スケールメリットによるコスト削減

医薬品や医療材料の共同購買により、仕入価格の交渉力が高まります。
また、医療機器やシステムの共同利用・一括導入、広告宣伝の共通化など、規模の拡大に伴い一拠点あたりのコストを削減できる場面が多くあります。

8.本部機能集約による管理効率化

経理、労務、採用、広報などの管理業務を本部に集約することで、各分院長や現場スタッフは診療に専念できます。
専門性の高い事務職員を本部に配置すれば、単独クリニックでは難しい水準の経営管理体制を構築することも可能です。

9.ブランド力・認知度の向上

同一の名称・コンセプトで複数拠点を展開することで、地域における法人の認知度と信頼感が高まります。
患者の転居や勤務地の変化にも法人内の他拠点で対応でき、拠点間の相互紹介による患者確保の効果も期待できます。

10.人材採用力・教育体制の強化

複数拠点を有する法人は、勤務地の選択肢や異動の柔軟性、キャリアアップの機会を提示できるため、採用市場での訴求力が高まります。
また、拠点間のローテーションや合同研修により、職員教育の体制も充実させることができます。

多店舗展開を進める際の注意点

11.管理者(常勤医師)の計画的な確保

医療法上、各診療所には管理者となる医師を置く必要があり、原則として管理者の兼任は認められません。
分院展開のスケジュールに合わせて、管理者候補となる医師の採用・育成を早めに進めておくことが、スムーズな開設の鍵となります。
勤務医の中から将来の分院長候補を見出し、計画的に育成していく視点が大切です。

12.理事長の理念を各拠点に浸透させる仕組みづくり

拠点が増えるほど、理事長が全ての現場に直接関わることは難しくなります。
診療方針や接遇の水準を全拠点で保つためには、理念やルールを明文化し、研修や会議を通じて繰り返し共有する仕組みが有効です。
「人」に頼る運営から「仕組み」で支える運営へ移行することが、拠点拡大の土台となります。

13.無理のない投資計画と資金調達

分院の開設には、内装工事、医療機器、運転資金など相応の初期投資が必要です。
診療圏調査に基づく収支シミュレーションを行い、開設後の立ち上がり期間も見込んだ余裕のある資金計画を立てることで、安心して展開を進めることができます。
金融機関との良好な関係構築や、既存拠点の収益力の把握も欠かせません。

14.分院長との信頼関係の構築

分院の運営を任せる分院長とは、経営方針や将来のビジョンについて日頃から丁寧に意思疎通を図ることが大切です。
定期的な面談や院長会議を通じて認識を揃え、法人の一員として長く活躍してもらえる信頼関係を築くことが、安定した分院運営につながります。

15.行政手続き・法規制への計画的な対応

分院の開設には、都道府県への定款変更認可申請、保健所への開設許可・開設届、厚生局への保険医療機関指定申請など、多くの行政手続きが必要です。
手続きには一定の期間を要するため、開設スケジュールから逆算した準備が重要です。
医療法人の手続きに精通した専門家のサポートを受けることで、確実かつ効率的に進めることができます。

多店舗展開を成功に導く体制づくり

16.展開に適した診療科・立地の見極め

多店舗展開には、診療内容の標準化がしやすく、一定の患者需要が見込める診療科が適しています。
また、診療圏調査に基づく需要予測、競合状況、交通利便性などを踏まえた立地選定が、分院の成否を大きく左右します。
感覚ではなくデータに基づく出店判断が成功の第一歩です。

17.医療法人の機関設計とガバナンス体制の整備

拠点数の拡大に応じて、理事会・社員総会の運営ルール、分院長の理事就任の是非、権限と責任の範囲などを明確に設計することが重要です。
理事長に意思決定を集中させつつ現場に適切に権限委譲する、バランスの取れた組織設計が安定運営の基盤となります。

18.分院長の処遇設計とインセンティブ制度

分院長に意欲を持って長く活躍してもらうためには、業績に応じた報酬制度、権限委譲の範囲、将来のキャリア展望などを明確にした処遇設計が効果的です。
役員報酬の水準や退職金規程の整備を含め、法人への貢献が正当に報われる仕組みを構築することが重要です。

19.拠点間の情報共有体制の構築

電子カルテや予約システムの統一、経営数値の一元管理、定例の院長会議・幹部会議の開催など、拠点間で情報を共有する仕組みが法人としての一体運営を支えます。
数値に基づいて各拠点の状況をタイムリーに把握できる体制は、的確な経営判断の基盤となります。

20.将来の事業承継・M&Aを見据えた展開設計

多店舗展開した医療法人は、将来の事業承継の場面で、法人全体の承継のほか分院単位での譲渡という選択肢も持つことができます。
出資持分の整理、拠点ごとの収支管理、承継しやすい組織体制の構築など、出口戦略まで見据えた展開設計を早期から意識することで、法人の価値を長期的に高めることができます。

結論

クリニックの多店舗展開は、地域医療への貢献と法人経営の安定化・成長を同時に実現できる有力な戦略です。管理者の確保、理念の浸透、資金計画、行政手続きなど、押さえるべきポイントはありますが、いずれも事前の準備と体制づくりによって十分に対応できるものです。

多店舗展開の成功には、本稿で挙げた20のポイントを踏まえ、機関設計、人事制度、情報共有体制などの経営基盤を計画的に整備していくことが重要です。将来の事業承継まで見据えた長期的な視点で、医療法人の運営に精通した専門家のサポートも活用しながら、早めに準備を始めることをお勧めします。

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事務所代表・記事監修
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中村 弥生(なかむら やよい)

渋谷区の医療法人の事務長として、総務・経理・各種手続き業務を統括。
退職後、税理士事務所勤務を経て、2006年に行政書士事務所を開業。以来、医療法人専門の行政書士事務所として業務を行っている。
行政書士向けに「医療法人の行政手続き実務講座」を開講。
2025年1月、書籍「はじめてでもミスしない いちばんわかりやすい医療法人の行政手続き」を出版。

【実績】 医療法人の設立100件以上、定款変更300件以上。保健所、厚生局手続き300件以上。役員変更や決算届出等2,000件以上。

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