医療法人のM&A実務(売却編)⑲:売り手側の保健所手続き:診療所廃止届等
事業譲渡において、売り手は診療所を廃止する必要があります。保健所への廃止届等の手続きは、法令で定められた義務です。
本記事では、保健所への廃止届等の手続きについて詳しく解説します。
診療所廃止届の提出タイミング
廃止届は、診療を終了した後に提出します。
提出期限
法令上の期限は、廃止後10日以内で、医療法第9条に基づきます。実務上の対応としては、最終診療日の翌日から1週間以内を目安に、できるだけ速やかに提出します。
提出が遅れた場合
罰則としては50万円以下の罰金(医療法第93条)が定められていますが、実際には口頭注意で済むことが多いです。ただし、保健所からの催促や、その後の行政手続きに支障をきたす可能性があるため注意が必要です。
廃止届の添付書類
廃止届には、以下の書類を添付します。
必須書類
診療所廃止届:保健所指定の様式を用い、廃止年月日と廃止理由(事業譲渡によるもの等)を明記します。
診療所開設許可証(医療法人の場合):原本を返納する必要があります。紛失している場合は顛末書を提出します。
診療用X線装置廃止届:X線装置を設置している場合、装置ごとに廃止届を提出します。
診療録の保管義務
診療所を廃止しても、診療録の保管義務は継続します。
保管期間
医師法第24条に基づき、最終記載日から5年間の保管が義務付けられています。実務上は、将来的な訴訟リスクへの対応を考慮し、5年以上の長期保管が推奨されます。
保管方法
保管場所は自宅や貸倉庫、専門の文書保管サービスなどを活用します。元院長(開設者)が保管責任者となり、適切な温湿度環境、セキュリティの確保、検索可能な整理状態を維持しなければなりません。
保管場所の届出
廃止届への記載、または別途届出により、保管場所の住所、保管責任者の氏名、連絡先を保健所へ報告します。
患者からの開示請求
廃止後であっても患者からの開示請求には対応する義務があり、速やかな対応が求められます。閲覧や写しの交付に際しては、手数料を徴収することも可能です。
医療廃棄物処理の確認
診療所廃止時には、医療廃棄物の適正処理が必要です。
処理対象
使用済み注射針や血液付着ガーゼなどの「感染性廃棄物」のほか、使用期限切れや開封済みの「医薬品」が対象となります。麻薬については別途特別な手続きが必要です。
処理方法
感染性廃棄物処理の許可を持つ産業廃棄物処理業者へ委託し、マニフェスト制度を遵守して処理完了を確認します。麻薬については、麻薬取扱者免許の返納とともに、保健所職員の立会いのもとで廃棄処分を行います。
廃止後の各種届出
診療所廃止後、保健所以外の機関への届出も必要です。
厚生局への届出
「保険医療機関指定廃止届」を速やかに提出します。
その他の届出
難病指定、労災指定、公費負担医療などの各種指定を受けている場合は、それぞれの機関に対してすべて廃止・辞退の届出を提出する必要があります。
保健所への事前相談の重要性
廃止手続きをスムーズに進めるためには、事前相談が欠かせません。
事前相談の内容
保健所によって必要書類や様式が異なる場合があるため、事前に正確なリストを入手します。提出のタイミングや診療録の保管計画についても確認しておきましょう。
相談のタイミング
クロージングの2ヶ月前、あるいは最終診療日が確定した時点が最適です。電話での確認だけでなく、必要に応じて訪問し、書類の事前チェックを受けると確実です。
相談時の確認事項
書類の持参または郵送の可否、必要部数、原本かコピーか、受理証の発行時期などを細かく確認しておきましょう。
まとめ
診療所廃止届は、最終診療後速やかに提出する必要があります。必要書類を事前に確認し、保健所との事前相談を徹底しましょう。
X線装置廃止届、医療廃棄物の適正処理、診療録の保管など、廃止に伴う様々な手続きを漏れなく実施することが重要です。一度廃止すると修正が難しいため、慎重な対応が求められます。
次回は、「買い手側の保健所手続き:個人と医療法人の開設手続きの違い」について解説します。






