医療法人が法人名や診療所名を変更したい場合の、必要な手続きの概要

医療法人が法人名や診療所名を変更したい場合、定款変更認可申請が必要になります。
本稿では、法人名のみの変更、診療所名のみの変更、両方とも変更する場合について解説します。
はじめに
医療法人の法人名や診療所名を変更する際は、定款変更の手続きが必要です。
変更内容によって必要な手続きが異なりますが、いずれの場合も、都道府県知事等の認可を受けなければ変更の効力は生じません。
変更には通常2~3ヶ月かかりますので、早めに手続きに着手することが重要です。
全体の流れ
法人名や診療所名の変更には大きく分けて以下の5つの手続きが必要です。
- 定款変更認可申請(都道府県等)
- 変更登記(法務局)
- 保健所への届出(保健所)
- 厚生局への届出(厚生局)
- その他の変更手続き
これらの手続きには通常2~3ヶ月程度かかりますので、計画的に進めることが重要です。
例えば、4月に名称変更が決まった場合、実際に新しい名称で診療を開始できるのは7月頃になります。
変更のパターン別手続きの違い
変更内容によって、必要な手続きが異なります。
以下、①法人名のみの変更、②診療所名のみの変更、③法人名と診療所名の両方を変更する場合に分けて解説します。
①法人名のみの変更
法人名のみを変更する場合、診療所名はそのままで法人名だけが変わります。例えば「医療法人社団東西会」から「医療法人社団北南会」に変更する場合です。
この場合、医療法第54条の9第3項に基づき定款変更認可申請が必要です。
定款の「名称」を定めた条文(通常第1条)を変更することになります。
法人名変更は広範囲に影響するため、次の点に注意が必要です。
- 診療所の看板等に法人名が表示されている場合は変更が必要
- 保険医療機関の届出事項変更届が必要
- 各種契約書や印鑑、銀行口座等の名義変更が必要
②診療所名のみの変更
診療所名のみを変更する場合、法人名はそのままで診療所名だけが変わります。
例えば「西北クリニック」から「丸の内クリニック」に変更する場合です。
この場合も定款変更認可申請が必要です。
定款の「本社団の開設する診療所の名称及び開設場所」を定めた条文(通常第4条)を変更することになります。
診療所名変更に際しての注意点
- 同一地域内に同一または類似名称の医療機関がないか確認
- 変更後の名称について保健所に事前相談
- 看板やパンフレット等の変更準備
- 患者への周知
③法人名と診療所名の両方を変更
法人名と診療所名の両方を変更する場合は、上記1と2の手続きを両方行う必要があります。
定款の第1条(名称)と第4条(診療所の名称及び開設場所)の両方を変更することになります。
この場合、あらゆる書類や表示物の変更が必要になりますので、変更漏れがないよう十分に注意してください。
具体的手続き
定款変更認可申請
まず、5W1H(時期、提出先、申請者、手続き名、法的根拠、様式)を確認しましょう。
- 時期
随時申請可能です。ただし、認可までに通常1~2ヶ月程度かかりますので、早めの着手が重要です。 - 申請先
申請先は原則として主たる事務所の所在地の都道府県知事等です。 - 申請者
申請者は医療法人です。 - 手続き名
手続き名は「定款変更認可申請」です。 - 根拠
法的根拠は、医療法第54条の9第3項、医療法施行規則第33条の25です。 - 様式について
定款変更認可申請の申請先の様式を使います。様式は都道府県等によって異なりますので、各都道府県等のウェブサイトで調べるか、医療法人の担当部署に直接確認してください。
定款変更認可申請の流れ
流れは都道府県等によって多少異なりますが、一般的には以下の流れになります。
- 素案提出
- 事前審査
- 本申請準備(押印手配など)
- 本申請
- 認可
まず、事前審査用に素案を提出します。
この段階では押印は不要です。
事前審査が終わった後に、必要な書類に押印をもらったり、証明書の原本を準備するなどして、本申請をします。
それから認可が下りる流れになります。
素案提出から最終的に認可が下りるまでには、通常1~2ヶ月程度かかります。
提出書類
定款変更認可申請で提出する書類一式については、都道府県等のホームページに掲載されています。一般的には以下の書類が必要です。
- 申請書
- 新旧条文対照表
- 新定款の案文
- 社員総会議事録
- 医療法人の謄本(履歴事項全部証明書)
- 事業計画(名称変更に伴う経費等)
- その他都道府県等が必要とする書類
登記申請
定款変更の認可がおり次第、司法書士等が法務局に変更登記申請をします。
登記申請から登記完了まで、通常1~2週間かかります。
変更登記が完了したら、法人謄本(履歴事項全部証明書)を取得し、これを後続の手続きで使用します。
保健所への届出
保健所への届出は、変更内容によって異なります。
① 法人名のみの変更の場合
「開設者の名称変更届」を提出します。
この届出には、定款変更認可書の写し、登記事項証明書を添付します。
② 診療所名のみの変更の場合
「診療所名称変更届」を提出します。
保健所によって取扱いが異なる場合がありますので、事前に確認してください。
③ 法人名と診療所名の両方変更の場合
上記①と②の両方の届出が必要です。
厚生局への届出
厚生局への届出も変更内容によって異なります。
① 法人名のみの変更の場合
「保険医療機関届出事項変更(異動)届」を提出します。
② 診療所名のみの変更の場合
「保険医療機関届出事項変更(異動)届」を提出します。
③ 法人名と診療所名の両方変更の場合
上記と同様の届出が必要です。
注意点と実務のポイント
法人名変更の注意点
- 法人印の変更
法人名が変わると印鑑も変更する必要があります。理事長印、法人角印、銀行印等の作成が必要になります。 - 銀行口座等の名義変更
金融機関への届出が必要です。法人謄本、理事長身分証明書、新しい銀行印等を準備してください。 - 各種契約の名義変更
賃貸借契約、リース契約、業務委託契約等の名義変更が必要です。契約先に法人謄本等を提出し、変更手続きを行います。
診療所名変更の注意点
- 看板等の変更
看板、案内表示、院内掲示物等の変更が必要です。特に医療法に基づく院内掲示は必ず変更してください。 - 印刷物の変更
診察券、処方箋、領収書、パンフレット等の印刷物の変更が必要です。 - 患者への周知
名称変更の時期や理由について、十分に患者に周知しましょう。院内掲示、お知らせ文書の配布、ウェブサイトでの告知等を行います。
変更に伴う費用
名称変更には以下のような費用がかかります。予算確保が必要です。
- 印鑑作成費用(1~5万円)
- 看板等の変更費用(10~50万円)
- 印刷物の変更費用(5~20万円)
- HPや挨拶状などでの周知費用(5~20万円)
その他の変更手続き
法人名や診療所名の変更に伴い、以下の手続きも必要になる場合があります。
社会保険関係
- 健康保険・厚生年金保険適用事業所名称変更届
- 労働保険関係変更届
税務関係
- 法人税・消費税等の異動届出書
- 源泉所得税の納付書送付先変更届出書
その他の届出
- 生活保護法指定医療機関変更届
- 難病指定医療機関変更届
- 介護保険関係の変更届
まとめ
法人名や診療所名の変更は、単なる名称の変更にとどまらず、様々な手続きや費用が発生します。
特に患者に対する周知は十分に行い、混乱が生じないよう配慮することが大切です。
変更の際は、本稿で解説した流れに沿って計画的に準備を進め、各関係機関への届出漏れがないようにしてください。
手続きに不明点があれば、早めに所管の行政機関に相談することをお勧めします。
以上、法人名・診療所名変更の手続きについて解説しました。
実際の手続きは都道府県等によって異なる場合がありますので、適宜関係機関にご確認ください。
