医療法人が法人名や診療所名を変更する場合の各機関への手続き詳細

医療法人が法人名や診療所名を変更する際には、都道府県等への定款変更認可申請、法務局での登記手続き、保健所や厚生局への届出など、多くの行政手続きが必要です。
本稿では、各機関への具体的な手続き内容について詳細に解説します。
はじめに
法人名や診療所名の変更は、医療法人にとって重要な意思決定であり、複数の行政機関に対する手続きが必要です。
本稿では、都道府県等への定款変更認可申請、法務局での登記手続き、保健所への届出、厚生局への届出の4つの主要な手続きについて、必要書類や提出方法、注意点まで詳細に解説します。
医療法人の事務担当者の方はもちろん、行政書士や司法書士などの専門家にとっても参考になる内容となっています。
都道府県等への定款変更認可申請
手続きの概要
医療法人の名称や診療所名を変更するには、まず定款変更認可申請が必要です。
これは医療法第54条の9第3項に基づく手続きで、都道府県知事等の認可を受けなければ変更の効力は生じません。
申請先と申請者
申請先
申請先は原則として、医療法人の主たる事務所の所在地を管轄する都道府県知事です。
ただし、2以上の都道府県の区域において病院等を開設する医療法人については、例外がありますので、都道府県等にしてください。
申請者
申請者は医療法人です。理事長が医療法人を代表して申請します。
提出書類
定款変更認可申請に必要な書類は、都道府県等によって若干異なりますが、一般的には以下のものが必要です。
- 定款変更認可申請書
- 新旧条文対照表
- 新定款案
- 社員総会議事録
- 医療法人の登記事項証明書
- その他都道府県等が求める書類
申請の流れ
定款変更認可申請の一般的な流れは以下のとおりです。
- 素案提出(事前審査)
事前審査用に素案を提出します。この段階では押印不要のものが多く、書類のコピーでも構いません。 - 事前審査
提出した素案について都道府県等による審査が行われます。修正が必要な場合は指示に従って修正します。 - 本申請準備
事前審査が完了したら、本申請に向けた準備を行います。理事長印の押印や、必要な原本の準備などを行います。 - 本申請
準備が整い次第、本申請を行います。 - 認可
審査の結果、問題がなければ認可が下ります。一般的に素案提出から認可まで1~2ヶ月程度かかります。
書類作成のポイント
定款変更認可申請書
都道府県等の指定様式を使用します。
申請者の住所・名称、変更内容、変更理由などを記載します。
変更理由は「法人名称変更のため」「診療所名称変更のため」など簡潔に記載します。
新旧条文対照表
変更する条文について、左側に新条文、右側に旧条文を記載し、変更する部分にアンダーラインを引きます。
法人名を変更する場合は第1条、診療所名を変更する場合は第4条の変更が一般的です。
新定款案
現行定款に変更内容を反映させたものです。
表題は「医療法人社団○○会定款(案)」としてください。
社員総会議事録
定款変更には社員総会の決議が必要です。
議事録には以下の内容を記載します。
- 開催日時・場所
- 出席社員数(定足数の確認)
- 議長の選任
- 議案(法人名・診療所名の変更について)
- 審議経過
- 決議結果
- 出席者の記名押印
法務局での登記手続き
手続きの概要
都道府県等から定款変更の認可を受けた後、法務局で変更登記を行う必要があります。
登記は認可を受けてから2週間以内に申請しなければなりません(組合等登記令第2条)。
登記の種類
変更内容によって必要な登記が異なります。
法人名変更の場合
名称変更の登記が必要です。
診療所名のみ変更の場合
目的変更の登記が必要です(医療法人の目的には開設する医療機関の名称・所在地が含まれています)。
法人名と診療所名の両方を変更する場合
名称変更および目的変更の登記が必要です。
申請先と申請者
申請先
申請先は、医療法人の主たる事務所の所在地を管轄する法務局です。
申請者
申請者は医療法人です。一般的には司法書士に依頼することが多いですが、理事長自身が申請することも可能です。
提出書類
登記申請に必要な書類は以下のとおりです。
- 変更登記申請書
- 定款変更認可書の原本
- 社員総会議事録の原本
- 委任状(司法書士に依頼する場合)
登記申請のポイント
定款変更認可書の原本
登記申請には定款変更認可書の原本が必要です。コピーでは受け付けられません。原本は一通しかないため、登記申請後に返却してもらう必要があります。
登記申請のタイミング
定款変更認可から2週間以内に登記申請をしなければなりません。期限を過ぎると過料の対象となる可能性がありますので注意が必要です。
登記事項証明書の取得
登記完了後、新しい登記事項証明書(履歴事項全部証明書)を取得します。この証明書は、後続の保健所や厚生局への届出に必要となります。
保健所への届出
手続きの概要
法人名や診療所名を変更した場合、診療所の所在地を管轄する保健所へ届出が必要です。
この届出は、変更登記完了後速やかに行う必要があります。
届出の種類
法人名のみ変更の場合
「診療所開設者の名称変更届」を提出します。
診療所名のみ変更の場合
「診療所名称変更届」を提出します。
法人名と診療所名の両方を変更する場合
両方の届出が必要です。保健所によっては一つの様式で対応できる場合もあります。
届出先と届出者
届出先
届出先は、診療所の所在地を管轄する保健所です。複数の診療所がある場合は、それぞれの診療所を管轄する保健所すべてに届出が必要です。
届出者
届出者は医療法人です。理事長が医療法人を代表して届出を行います。
提出書類
保健所への届出に必要な書類は、保健所によって異なりますが、一般的には以下のものが必要です。
- 診療所開設者の名称変更届または診療所名称変更届
- 登記事項証明書
- 新定款(保健所によっては必要)
- その他保健所が求める書類
届出のポイント
届出のタイミング
変更登記完了後、速やかに届出を行うことが望ましいです。
複数診療所の場合
複数の診療所を開設している場合は、すべての診療所について届出が必要です。管轄保健所が異なる場合は、それぞれの保健所に届出が必要です。
診療所の標識
診療所名を変更した場合、医療法第14条の2に基づく診療所の標識も変更する必要があります。保健所への届出時に標識の変更についても確認しておくとよいでしょう。
厚生局への届出
手続きの概要
保険医療機関として指定を受けている医療機関が法人名や診療所名を変更した場合、管轄の厚生局に届出を行う必要があります。
この届出は、保健所への届出後に行います。
届出の種類
厚生局への届出は「保険医療機関届出事項変更(異動)届」を提出します。
法人名変更、診療所名変更のいずれの場合も同じ様式を使用します。
届出先と届出者
届出先
届出先は、診療所の所在地を管轄する地方厚生局事務所です。
届出者
届出者は医療法人です。理事長が医療法人を代表して届出を行います。
提出書類
厚生局への届出に必要な書類は以下のとおりです。
- 保険医療機関届出事項変更(異動)届
- 保健所への届出書の写し
- 登記事項証明書
- その他厚生局が求める書類
届出のポイント
届出のタイミング
厚生局への届出は、保健所への届出後に行います。
保険医療機関コード
診療所名のみの変更であれば、保険医療機関コードは変更されません。
処方箋等の様式変更
名称変更に伴い、保険医療機関として使用する処方箋等の様式も変更する必要があります。厚生局への届出時に確認しておくとよいでしょう。
施設基準の届出
特掲診療料や入院料等の施設基準の届出を行っている場合、名称変更に伴い、施設基準の変更届も必要になることがあります。厚生局に確認してください。
その他の行政機関等への手続き
法人名や診療所名の変更に伴い、上記の主要な手続き以外にも、以下の機関への届出が必要になる場合があります。
税務署等への届出
法人税関係
- 「法人異動届出書」を所轄税務署に提出
- 法人名変更の場合のみ必要
消費税関係
- 「消費税課税事業者届出書」等を所轄税務署に提出
- 法人名変更の場合のみ必要
地方税関係
- 「法人設立・設置届出書」等を所轄の都道府県税事務所・市区町村に提出
- 法人名変更の場合のみ必要
社会保険関係の届出
健康保険・厚生年金保険関係
- 「健康保険・厚生年金保険適用事業所名称変更届」を年金事務所に提出
- 法人名変更の場合のみ必要
労働保険関係
- 「労働保険名称・所在地等変更届」を労働基準監督署に提出
- 法人名変更の場合のみ必要
金融機関等への届出
銀行口座
- 「名義変更届」を取引銀行に提出
- 法人名変更の場合のみ必要
- 登記事項証明書、変更後の印鑑証明書等が必要
クレジットカード加盟店
- 「加盟店名称変更届」をクレジットカード会社に提出
- 法人名または診療所名変更の場合に必要
各種指定医療機関の届出
生活保護法指定医療機関
- 「指定医療機関変更届」を都道府県・市に提出
労災保険指定医療機関
- 「労災保険指定医療機関変更届」を労働基準監督署に提出
自立支援医療機関
- 「指定自立支援医療機関変更届」を都道府県・市に提出
各種契約の変更手続き
賃貸借契約
- 賃貸借契約の当事者名変更手続き
- 法人名変更の場合のみ必要
リース契約
- リース契約の当事者名変更手続き
- 法人名変更の場合のみ必要
業務委託契約
- 業務委託契約の当事者名変更手続き
- 法人名または診療所名変更の場合に必要
まとめ
法人名や診療所名の変更には、本稿で解説した主要な行政手続きだけでなく、様々な届出や変更手続きが必要です。
それぞれの手続きにはタイミングや必要書類が異なりますので、計画的に進める必要があります。
また、手続き漏れがないよう、チェックリストを作成して進捗管理することをお勧めします。
届出先の行政機関によって取扱いが異なる場合も多いため、不明な点があれば事前に問い合わせることが重要です。
本稿が医療法人の名称変更手続きの一助となれば幸いです。
なお、実際の手続きは法令改正や各行政機関の運用変更等により変わる可能性がありますので、最新の情報を確認することをお勧めします。
