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医療法人が法人名や診療所名を変更する際の準備と確認事項

準備

医療法人が法人名や診療所名を変更したい場合、定款変更認可申請等の手続きに入る前に、様々な準備と確認が必要です。

本稿では、新名称の適切性確認や類似名称との重複確認など、変更前の準備と確認事項について詳細に解説します。

はじめに

法人名や診療所名の変更は、患者さんや取引先にも影響する重要な意思決定です。変更手続きを始める前に、新しい名称の適切性や法的な問題がないかを十分確認しておかなければなりません。

事前の確認不足により、後になって名称変更を撤回したり再変更するようなことがあれば、多大な時間と費用のロスになります。
本稿では、変更前に必ず確認すべき事項について解説します。

名称変更の目的明確化

変更目的の整理

名称変更を検討する理由はさまざまです。
代表的な理由としては以下のようなものがあります。

  • 診療内容や専門領域の変更に伴う名称変更
  • 地域イメージとの整合性向上
  • 診療所のリブランディング
  • 統合や分割に伴う名称変更
  • 理事長等の交代に伴う名称変更
  • 紛争等による緊急の名称変更

変更の目的を明確にすることで、新名称に求める要件が明らかになります。

例えば、「皮膚科に特化した診療を行うため、皮膚科クリニックという診療科を名称に含めたい」という明確な目的がある場合は、それに合致する名称を考える必要があります。

名称変更に関わる関係者の合意形成

名称変更には、理事会・社員総会での承認だけでなく、以下の関係者の理解と協力が必要です。

  • 医療法人の役員・社員
  • 管理者および医療スタッフ
  • 患者
  • 取引先(医薬品・医療機器メーカー、業務委託先等)
  • 連携医療機関
  • 地域の医師会等

これらの関係者、特に理事や社員には、名称変更の目的、理由、期待する効果などを十分に説明し、合意を得ておくことが重要です。
最終的には社員総会での議決が必要になります。

新名称の選定

新名称の選定基準

新しい法人名や診療所名を選定する際には、以下の基準で検討するとよいでしょう。

  • 診療内容との整合性
  • 地域性や立地条件との関連性
  • 患者にとっての覚えやすさ、親しみやすさ
  • 発音のしやすさ、読み間違えられにくさ
  • 将来的な診療内容の変更や拡大の可能性
  • 社会的信頼感、イメージ

名称に診療科名を含める場合は、標榜する診療科との整合性が必要です。

例えば、「皮膚科クリニック」という名称にする場合は、実際に皮膚科を標榜していることが前提です。

避けるべき名称

以下のような名称は避けるべきです。

  • 医療機関としてふさわしくない俗称や略称
  • 誇大な表現(「最高」「超一流」など)
  • 医学的に証明されていない効果を暗示する名称
  • 特定の疾患の完治・根治を暗示する名称
  • 他の有名な医療機関と混同されやすい名称
  • 公序良俗に反する表現を含む名称

医療に関する広告規制は厳しく、これらの表現は名称としても認められない可能性が高いことに注意が必要です。

新名称の適切性確認

医療法・医療広告ガイドラインとの適合性

医療法では医療に関する広告について厳しい規制があり、医療機関の名称もこれに従う必要があります。
「医療広告ガイドライン」に沿った名称であるか確認しましょう。

  • 虚偽の表現を含まないこと
  • 誇大な表現を含まないこと
  • 客観的に証明できない表現を含まないこと
  • 他の医療機関と比較する表現を含まないこと
  • 患者の体験談を表現するものでないこと
  • 公序良俗に反する表現を含まないこと

これらの基準に照らして問題がないか確認の上、保健所に事前確認をしましょう。

医療機関名と診療科名の関係

名称に診療科名を含める場合は、以下の点に注意が必要です。

  • 実際に標榜している診療科名のみ名称に含められる
  • 標榜できる診療科名は医療法で定められている
  • 複数の診療科を標榜している場合でも、名称に含めるのは主たる診療科が一般的
  • 一部の診療科のみを名称に含めると他の診療科が目立たなくなる可能性がある

例えば、内科・小児科・皮膚科を標榜している診療所が「皮膚科クリニック」という名称にすると、内科や小児科の患者が減少する可能性があります。
全体的なバランスを考慮して名称を選びましょう。

保健所との事前相談

新名称の候補が決まったら、保健所に事前相談をしましょう。
保健所によっては、名称変更の届出の際に名称の適切性について審査する場合があります。
事前に相談しておくことで、後で変更を求められるリスクを減らせます。

保健所への事前相談では、以下の点を確認しましょう。

  • 新名称の適切性
  • 必要な手続きと提出書類
  • 処理期間の目安
  • その他の注意点

類似名称との重複確認

同一地域内での類似名称確認

同一地域内に同一または類似の名称を持つ医療機関がある場合、患者の混乱を招くだけでなく、トラブルの原因にもなります。

以下の方法で確認しましょう。

  • 地域の医療機関マップや一覧の確認
  • 保健所での類似名称の有無の確認
  • インターネット検索(地域名+候補の診療所名)
  • 地域の医師会への確認

特に同一区市町村内で、同一または極めて類似した名称の医療機関がある場合は、名称変更が認められない可能性があります。

より広域での類似名称確認

患者の行動範囲が広い都市部などでは、同一区市町村だけでなく、隣接地域や交通アクセスの良い地域まで含めて確認するとよいでしょう。
また、遠方であっても著名な医療機関と同一または極めて類似した名称は避けるべきです。

確認方法としては、以下のようなものがあります。

  • 都道府県の医療機関情報システムの検索
  • 日本医師会・日本歯科医師会のデータベース検索
  • 各種医療機関検索サイトの利用
  • 全国規模での検索エンジン検索

特に医療法人名については、全国的に重複がないことが望ましいです。

類似商標・サービスマークとの重複確認

医療機関の名称に商標登録されている名称や、著名な企業名・商品名と同一または類似の名称を使用すると、商標権侵害のリスクがあります。

以下の方法で確認しましょう。

  • 特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)での商標検索
  • インターネット検索による著名企業・商品名の確認
  • 必要に応じて弁理士への相談

特に大手企業のブランド名や商品名に類似した名称は、商標権侵害のリスクが高いため避けるべきです。

日本語以外の言語での表記確認

外国語由来の名称や、外国語に翻訳した際に問題が生じる可能性のある名称を選ぶ場合は、以下の確認も必要です。

  • 外国語での意味や用法が適切か
  • 発音やスペルが複雑すぎないか
  • 外国語に翻訳した際に不適切な意味にならないか
  • 外国語での名称として商標登録されていないか

特に国際的な患者が多い地域では、英語などでの表記も同時に検討しておくとよいでしょう。

実務的な準備事項

費用見積もり

名称変更には、手続き費用だけでなく、様々な付随費用がかかります。
事前に予算を確保するために、以下の費用を見積もっておきましょう。

  • 印鑑作成費用(3~5万円)
  • 看板等の変更費用(10~50万円)
  • 印刷物の変更費用(5~20万円)
  • ウェブサイト等の変更費用(5~20万円)
  • 各種届出等の手続き費用
  • 患者・関係先への周知費用

これらの費用は変更の規模によって大きく異なりますが、合計すると数十万円から100万円以上になることもあります。
事前に十分な予算確保が必要です。

スケジュール作成

名称変更には通常2~3ヶ月かかります。
実際の変更日(新名称使用開始日)から逆算して、以下のスケジュールを作成しましょう。

  1. 新名称候補リストアップ(変更3ヶ月前まで)
  2. 類似名称調査(変更3ヶ月前まで)
  3. 保健所への事前相談(変更3ヶ月前まで)
  4. 理事会・社員総会での決議(変更2~3ヶ月前)
  5. 定款変更認可申請(変更2ヶ月前)
  6. 登記申請(認可後速やかに)
  7. 保健所・厚生局への届出(登記完了後速やかに)
  8. 看板・印刷物等の変更準備(認可後~変更日)
  9. 患者・関係先への事前周知(変更1ヶ月前~)
  10. 実際の名称変更日

特に定款変更認可申請から認可までの期間は都道府県等によって異なるため、余裕を持ったスケジュールを組むことが重要です。

患者・関係者への周知計画

名称変更による混乱を最小限に抑えるため、患者や関係者への周知計画を立てましょう。
以下の方法が考えられます。

  1. 院内掲示(変更の1~2ヶ月前から)
  2. お知らせ文書の配布(来院患者向け)
  3. ウェブサイト・SNSでの告知
  4. 診察券や処方箋への告知文の印刷
  5. 地域の広報誌等への掲載
  6. 関係医療機関・取引先への通知

特に高齢の患者や定期通院している慢性疾患の患者には、十分な説明を行い、混乱を防ぐ配慮が必要です。

まとめ

法人名や診療所名の変更は、医療法人の重要な意思決定です。
変更手続きに着手する前に、新名称の適切性確認や類似名称との重複確認を十分に行い、トラブルを未然に防ぎましょう。

また、変更に伴う費用や手間も決して小さくないことを認識し、十分な準備と計画のもとで進めることが重要です。
特に患者さんへの周知は最も重視すべき点であり、継続的な医療の提供に支障が生じないよう配慮してください。

本稿で解説した事前準備と確認事項を踏まえ、円滑な名称変更を実現してください。
なお、実際の手続きは都道府県等によって異なる場合がありますので、具体的な手続きについては所管の行政機関に確認することをお勧めします。

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事務所代表・記事監修
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中村 弥生(なかむら やよい)

渋谷区の医療法人の事務長として、総務・経理・各種手続き業務を統括。
退職後、税理士事務所勤務を経て、2006年に行政書士事務所を開業。以来、医療法人専門の行政書士事務所として業務を行っている。
行政書士向けに「医療法人の行政手続き実務講座」を開講。
2025年1月、書籍「はじめてでもミスしない いちばんわかりやすい医療法人の行政手続き」を出版。

【実績】 医療法人の設立100件以上、定款変更300件以上。保健所、厚生局手続き300件以上。役員変更や決算届出等2,000件以上。

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