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医療法人の売却に関するよくある質問(FAQ)

失敗しないための医療法人売却ガイド

医療法人の売却について、よく寄せられる質問を行政書士が解説します。

医療法人の売却に関するFAQ(手続き・スケジュール・引き継ぎ)

Q. 医療法人の売却スキームの種類を教えてください

医療法人の売却には、主に以下のようなスキームがあり、医療法人の類型や当事者の状況に応じて適切な方法を選択することになります。

1. 出資持分の譲渡
出資持分あり医療法人で最も一般的に用いられるスキームです。売り手である出資者が、その出資持分を買い手に譲渡し、併せて社員や役員を交代させることで経営権を移転します。法人格がそのまま継続するため、診療所の開設許可や保険医療機関の指定、従業員の雇用契約なども原則として維持されます。手続きが比較的シンプルで、事業の継続性が保たれやすいことがメリットです。

2. 社員・役員の交代による経営権移転
出資持分なし医療法人の場合に用いられるスキームです。出資持分が存在しないため、売り手側の社員が退社し、買い手側の関係者が新たに社員として入社することで、社員総会の構成員を入れ替えます。その後、理事・監事といった役員も交代させることで経営権が移転します。このスキームでは出資持分の譲渡代金という形での対価の授受ができないため、退職慰労金の支給や、理事長貸付金の返済といった方法で売り手に資金が支払われるのが一般的です。

3. 合併
買い手側の医療法人が売り手側の医療法人を吸収合併する方法です。合併により売り手側の医療法人は消滅し、その権利義務は買い手側の医療法人に包括的に承継されます。合併には都道府県知事の認可が必要であり、手続きに相応の時間と労力を要します。複数の医療法人を統合してスケールメリットを追求する場合や、グループ再編の一環として利用されることがあります。

4. 事業譲渡
医療法人が運営する診療所等の事業を、別の医療法人や個人に譲渡する方法です。売り手側の医療法人は存続したまま、特定の事業だけを切り離して譲渡します。ただし、この方法では診療所の開設許可や保険医療機関の指定は引き継がれず、買い手側で新たに取得する必要があります。従業員の雇用契約も自動的には承継されないため、改めて雇用契約を締結する必要があります。法人全体ではなく一部の事業のみを譲渡したい場合や、売り手側の法人に残したくない債務がある場合などに検討されます。

実務上は、出資持分あり医療法人であれば出資持分の譲渡、出資持分なし医療法人であれば社員・役員の交代による経営権移転が選択されることがほとんどです。どのスキームが最適かは、医療法人の類型、財務状況、買い手側の意向、税務上の影響などを総合的に考慮して判断することになります。

Q. 医療法人の売却で失敗しないために、特に注意すべきことは何ですか?

医療法人の売却を成功させるためには、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。

早めの準備と十分な時間の確保
売却を思い立ってすぐに取引が成立するわけではありません。買い手の選定から条件交渉、デューデリジェンス(買い手側による調査)、行政手続きまで、通常は半年から1年程度の期間を要します。体調面の不安や年齢的な理由で売却を検討される場合は、余裕をもって準備を始めることが大切です。切羽詰まった状況での売却は、交渉上不利になりやすく、納得のいかない条件で手放すことになりかねません。

財務状況の正確な把握と整理
買い手が最も重視するのは、医療法人の財務状況です。決算書の内容を正確に把握し、できれば売却前に財務内容を整理しておくことが望ましいでしょう。特に、理事長からの借入金、未払いの社会保険料や税金、簿外債務の有無などは必ず確認しておく必要があります。後になって想定外の債務が発覚すると、取引が破談になったり、売却後にトラブルとなる原因になります。

適正な売却価格の見極め
医療法人の価値を客観的に評価することは容易ではありません。過大な期待を抱いて高すぎる価格を設定すれば買い手が見つからず、逆に安すぎる価格で売却すれば後悔することになります。出資持分の評価方法や、退職慰労金の相場、類似案件の取引事例などを参考に、適正な価格帯を把握しておくことが重要です。

情報漏洩の防止
売却の検討段階で情報が外部に漏れると、従業員の動揺や離職、患者の流出、取引先との関係悪悪化など、さまざまな問題が生じる可能性があります。売却交渉は秘密裏に進め、関係者への開示は適切なタイミングで行う必要があります。買い手候補との間で秘密保持契約を締結することはもちろん、社内での情報管理にも十分注意してください。

従業員への配慮
医療機関にとって従業員は最も重要な財産です。売却に伴って主要なスタッフが退職してしまうと、医療法人の価値が大きく損なわれます。従業員の雇用条件がどうなるのか、買い手との間で明確に取り決めておくとともに、従業員への説明のタイミングや方法についても慎重に検討する必要があります。

行政手続きの確認
医療法人の売却には、都道府県への届出や認可申請、保険医療機関の届出など、さまざまな行政手続きが伴います。手続きの漏れや遅れは、診療の継続に支障をきたす可能性があります。必要な手続きの内容とスケジュールを事前に確認し、計画的に進めることが大切です。

信頼できる専門家の活用
医療法人の売却は、医療法、税法、労働法など多岐にわたる専門知識が必要となる複雑な取引です。M&A仲介会社、税理士、弁護士、行政書士など、それぞれの分野の専門家の力を借りることで、手続きの漏れやトラブルを防ぎ、円滑な売却を実現することができます。特に医療法人特有の規制や行政手続きに精通した専門家に相談することをお勧めします。

契約書の内容確認
売却に関する契約書には、譲渡価格や支払条件だけでなく、表明保証条項、競業避止義務、損害賠償に関する条項など、売却後の責任に関わる重要な事項が含まれます。契約内容を十分に理解しないまま署名してしまうと、売却後に予期せぬ責任を負うことになりかねません。契約書は必ず専門家のチェックを受けるようにしてください。

売却は多くの場合、一度きりの経験です。後悔のない取引を実現するために、十分な準備と慎重な判断を心がけてください。

Q. 医療法人を売却できる条件はありますか?(債務超過でも売却できますか?)

医療法人の売却について、法律上「この条件を満たさなければ売却できない」という厳格な要件が定められているわけではありません。基本的には、買い手が見つかり、当事者間で条件が合意できれば、売却は可能です。

ただし、実務上は以下のような点が売却の成否に影響します。

財務状況について
債務超過であっても、医療法人の売却は可能です。買い手にとって重要なのは、現時点の純資産額だけではなく、その医療法人を引き継ぐことで将来得られる収益性や事業価値です。立地条件が良い、安定した患者数がある、優秀なスタッフが揃っている、特定の診療科目で強みがあるといった要素があれば、たとえ債務超過であっても買い手が現れる可能性は十分にあります。

ただし、債務超過の程度が大きい場合や、将来の収益改善が見込めない場合には、買い手を見つけることが難しくなります。また、債務超過の医療法人を引き継ぐ買い手は、その債務も承継することになりますので、売却価格の調整や、売り手側での債務整理が求められることもあります。

診療所を開設・運営していること
医療法人の売却は、現に診療所を開設し運営している法人であることが前提となります。診療所を開設していない、いわゆる「休眠状態」の医療法人については、法人格のみを売買することは認められていません。医療法人制度は、医療事業を行うことを目的として設立を認められるものであり、実態のない法人格だけを取引の対象とすることは、制度の趣旨に反するためです。休眠医療法人の売買は行政からも問題視されており、このような取引は避けるべきです。

行政上の問題がないこと
過去に行政処分を受けている、保険医療機関の指定取消を受けたことがある、現在係争中の問題を抱えているといった場合には、買い手が慎重になるのは当然です。行政との関係に問題がある医療法人は、売却のハードルが高くなります。

社員・役員の協力が得られること
医療法人の売却を実行するためには、社員総会での決議や役員の交代手続きが必要です。社員や役員の中に売却に反対する者がいる場合、手続きを進めることが困難になります。売却を検討する段階で、関係者の意向を確認し、協力を得られる体制を整えておくことが重要です。

まとめると
債務超過や業績不振であっても、診療所を運営している医療法人であれば売却自体は可能です。むしろ、経営が厳しいからこそ早めに売却を検討し、事業を継続できる買い手に引き継ぐという選択は、患者や従業員のためにも意味のあることです。売却できるかどうかは、最終的には「買い手にとって引き継ぐ価値があるかどうか」にかかっています。自院の状況を客観的に把握し、どのような点が買い手にとっての魅力になりうるかを整理したうえで、専門家に相談されることをお勧めします。

Q. 売却前に準備しておくべき書類や情報は何ですか?

医療法人の売却を円滑に進めるためには、買い手が検討に必要とする書類や情報を事前に整理しておくことが重要です。準備が不十分だと、交渉が長引いたり、買い手からの信頼を損ねたりする原因になります。以下に、主な準備書類・情報をまとめます。

法人の基本情報に関する書類
医療法人の登記事項証明書、定款、社員名簿、役員名簿は必須です。また、設立時の認可申請書類一式や、その後の変更認可・届出の書類も確認しておく必要があります。都道府県に届け出ている届出事項と現状に相違がないかも、この段階で点検しておくとよいでしょう。

財務に関する書類
直近3期分程度の決算書(貸借対照表、損益計算書、事業報告書等)は必ず求められます。加えて、月次の試算表、借入金の明細(金融機関からの借入、理事長からの借入など)、固定資産台帳なども準備しておきます。税務申告書の控えや、勘定科目内訳書も重要な資料です。簿外債務や未払いの税金・社会保険料がないかも確認し、正確な財務状況を把握しておくことが大切です。

診療所の運営に関する書類
診療所の開設許可証、保険医療機関指定通知書、各種手続き書類(施設基準の届出など)を揃えておきます。また、直近の患者数の推移(外来患者数、レセプト件数など)、診療科目別の収入内訳、主な診療圏の情報なども、買い手が事業価値を判断するうえで重要な情報となります。

不動産・設備・契約関係の書類
診療所の建物や土地が自己所有の場合は登記事項証明書と固定資産評価証明書、賃借の場合は賃貸借契約書を用意します。医療機器については、一覧表を作成し、取得時期、取得価格、現在の状態などを整理しておきます。リース契約がある場合は、契約書とともに残債がわかる資料も揃えておきます。そのほか、保守契約、医薬品や医療材料の取引基本契約、外部委託契約(検査、清掃、医療廃棄物処理など)といった各種契約書も整理しておきます。契約の相手方、契約期間、解約条件などを一覧にまとめておくと便利です。

人事・労務に関する書類
従業員名簿、組織図、就業規則、給与規程、退職金規程などを準備します。雇用契約書の写しや、社会保険・労働保険の加入状況がわかる資料も必要です。従業員の年齢構成、勤続年数、有資格者の状況なども整理しておくと、買い手が人員体制を把握しやすくなります。

その他の情報
売却を検討するに至った理由、希望する売却条件(価格、時期、従業員の処遇など)、売却後の理事長ご自身の関与の希望(勤務医として残りたい、完全に引退したいなど)についても、ある程度整理しておくと、買い手やM&A仲介会社との話がスムーズに進みます。

これらの書類や情報は、買い手によるデューデリジェンスの際にも求められるものです。早い段階で整理しておくことで、売却プロセス全体を効率的に進めることができます。書類の所在がわからない場合や、過去の届出内容に不安がある場合は、顧問の税理士や行政書士に相談して確認しておくことをお勧めします。

Q. 売却代金はいつ、どのように受け取れますか?

医療法人の売却における対価の受け取り方は、取引の形態や当事者間の合意内容によって異なります。一般的な流れと受け取り方法についてご説明します。

受け取りのタイミング
売却代金の受け取りは、通常、最終契約の締結とクロージング(取引実行)のタイミングで行われます。クロージングとは、出資持分の譲渡や社員・役員の交代といった経営権移転の手続きが実行される日を指します。多くの場合、クロージング日に代金の全額または大部分が支払われますが、取引条件によっては一部を後日支払う分割払いとするケースもあります。

また、最終契約締結からクロージングまでに一定の期間を設ける場合は、契約締結時に手付金や頭金として一部を受け取り、残額をクロージング時に受け取るという形をとることもあります。

対価の形態
医療法人の売却における対価は、単純に「売却代金」として一括で受け取るわけではなく、複数の名目に分かれることが一般的です。

出資持分あり医療法人の場合は、出資持分の譲渡代金が対価の中心となります。出資者が保有する出資持分を買い手に譲渡し、その対価として代金を受け取ります。

これに加えて、理事長が医療法人に対して貸し付けていた資金がある場合は、その返済を受けることになります。理事長貸付金は売却前に法人から返済を受けるか、売却条件の中で買い手側が引き継ぐ債務として調整されます。

さらに、退職慰労金として受け取る部分もあります。長年にわたり医療法人の経営に携わってきた理事長に対して、退任に際して退職慰労金が支給されるのは一般的なことです。退職慰労金は役員報酬とは異なる税務上の取り扱いを受けるため、対価の一部を退職慰労金の形で受け取ることで、税負担を軽減できる場合があります。

出資持分なし医療法人の場合は、譲渡できる出資持分がないため、退職慰労金や理事長貸付金の返済が対価の中心となります。

支払い方法
支払いは銀行振込で行われるのが一般的です。高額の取引となるため、着金確認を確実に行い、振込手数料の負担についても事前に取り決めておきます。

注意すべき点
受け取る対価には税金がかかります。出資持分の譲渡代金には譲渡所得として所得税・住民税が、退職慰労金には退職所得として所得税・住民税が課されます。それぞれ税率や計算方法が異なるため、手取り額を正確に把握するには、事前に税理士に相談して試算しておくことが重要です。

また、対価の金額、支払時期、支払方法については、最終契約書に明確に記載しておく必要があります。分割払いとする場合は、買い手の支払い能力や、万一支払いが滞った場合の対応についても契約書で取り決めておくことが大切です。

売却代金の受け取りは、長年の経営の集大成ともいえる重要な場面です。曖昧な取り決めがトラブルの原因となることのないよう、専門家の助言を得ながら慎重に進めてください。

Q. 買い手の探し方と仲介会社の選び方を教えてください。

医療法人の売却において、良い買い手を見つけることは取引の成否を左右する重要なポイントです。買い手の探し方にはいくつかの方法があり、それぞれに特徴があります。

買い手を探す方法
まず、ご自身の人脈を通じて探す方法があります。同じ診療科目の医師仲間、医師会のネットワーク、大学医局の後輩、あるいは顧問税理士や取引のある金融機関、からの紹介などが考えられます。医薬品や医療機器の卸業者・メーカー of 営業担当者からの紹介も有力なルートです。この方法は、信頼できる相手と直接交渉できるというメリットがある一方、売却を検討していることが周囲に知られやすく、また候補者の範囲が限られるというデメリットもあります。

次に、M&A仲介会社やアドバイザリー会社を利用する方法があります。仲介会社は多くの買い手候補のネットワークを持っており、売り手の希望条件に合った相手を広く探すことができます。秘密保持にも配慮しながら進められるため、現在最も一般的に利用されている方法です。

仲介会社を選ぶ際のポイント
仲介会社にはさまざまな会社があり、得意分野や手数料体系、サービス内容が異なります。以下のポイントを参考に選定してください。

医療法人M&Aの実績があるかどうかは重要な判断基準です。医療法人の売却は、一般企業のM&Aとは異なる規制や行政手続きが伴います。医療法人特有の論点を理解し、実績のある会社を選ぶことで、手続きの漏れやトラブルを防ぐことができます。

手数料体系が明確かどうかも確認すべきポイントです。仲介手数料は会社によって計算方法が異なり、成功報酬のみの場合もあれば、着手金や中間金が発生する場合もあります。最低報酬額が設定されていることも多いため、事前に総額の目安を確認しておくことが大切です。手数料の安さだけで選ぶのではなく、提供されるサービスの内容と合わせて判断してください。

担当者との相性も軽視できません。売却のプロセスは数か月から1年以上に及ぶこともあり、その間、担当者とは密にやり取りをすることになります。医療業界への理解があるか、質問に対して誠実に回答してくれるか、こちらの意向をきちんと汲み取ってくれるかといった点を、初回面談の段階で見極めてください。

仲介会社に依頼する際の注意点
複数の会社に相談して比較検討することをお勧めします。初回相談は無料の会社が多いため、何社かに話を聞いたうえで判断しても遅くはありません。

秘密保持への対応も重要です。売却情報が外部に漏れることを防ぐため、買い手候補への情報開示の方法や、ノンネームシート(法人名を伏せた概要書)の内容についても確認しておきましょう。

買い手探しと仲介会社選びは、売却の成功を左右する重要なステップです。焦らず、信頼できるパートナーを見つけることを心がけてください。

Q. 売却後に問題が発覚した場合、責任を問われることはありますか?

医療法人の売却後であっても、一定の場合には売り手が責任を問われる可能性があります。売却契約の内容によって責任の範囲は異なりますが、一般的な仕組みについてご説明します。

表明保証条項による責任
医療法人の売却に関する契約書には、通常「表明保証条項」が設けられます。これは、売り手が買い手に対して、契約締結時点における医療法人の状態について一定の事項が真実かつ正確であることを表明し、保証するものです。

表明保証の対象となる事項としては、たとえば、財務諸表が正確であること、簿外債務が存在しないこと、未払いの税金や社会保険料がないこと、重要な契約がすべて開示されていること、係争中の訴訟がないこと、行政処分を受けていないこと、労務上の問題がないことなどが挙げられます。

売却後にこれらの表明保証に反する事実が発覚した場合、売り手は買い手に対して損害賠償責任を負う可能性があります。たとえば、売却後に過去の未払い残業代が発覚して買い手が支払いを余儀なくされた場合や、開示されていなかった債務が見つかった場合などが該当します。

補償条項による責任
表明保証違反に基づく損害賠償のほか、契約書には「補償条項」が設けられることもあります。補償条項は、特定のリスクが現実化した場合に売り手が買い手の損害を補償することを定めるものです。

たとえば、売却前の事業年度に関する税務調査で追徴課税が発生した場合、その負担は売り手が補償するといった取り決めがなされることがあります。

責任の範囲と期間
表明保証違反や補償条項に基づく責任には、通常、一定の制限が設けられます。

まず、責任を負う期間(存続期間)が定められます。一般的には、クロージングから1年から3年程度とされることが多いですが、税務に関する事項については、時効の関係からより長い期間が設定されることもあります。

また、損害賠償の上限額が定められることもあります。売却代金の一定割合を上限とするケースや、特定の金額を上限とするケースがあります。

さらに、少額の損害については請求できないとする最低金額が設定されることもあります。

これらの条件は交渉によって決まるため、契約締結前に内容をよく確認し、過度に売り手に不利な条件になっていないか検討することが重要です。

故意に隠していた場合
表明保証違反の中でも、売り手が問題の存在を知りながら故意に隠していた場合は、特に重大な責任を問われる可能性があります。故意の隠蔽があった場合には、契約で定めた責任の上限額や存続期間の制限が適用されないとする条項が設けられることもあります。また、詐欺として法的責任を追及される可能性もあります。

責任を問われないために
売却後のトラブルを防ぐためには、売却前のデューデリジェンス(買い手による調査)の段階で、医療法人の状況を正確かつ誠実に開示することが最も重要です。問題点を隠したまま売却を進めても、後で発覚すれば結局は責任を問われることになり、かえって深刻な事態を招きます。

把握している問題点があれば、事前に買い手に開示し、その問題を踏まえた条件で合意することが賢明です。開示済みの事項については、表明保証の対象から除外したり、買い手が了承したうえで取引を行ったものとして、売り手の責任が軽減される場合もあります。

契約書の表明保証条項や補償条項は、専門的で複雑な内容になることが多いため、弁護士などの専門家に内容を確認してもらい、自分がどのような責任を負う可能性があるのかを十分に理解したうえで契約を締結するようにしてください。

Q. 売却後、私(現理事長)は医療法人に残ることはできますか?

売却後も医療法人に残ることは可能です。ただし、どのような立場で、どの程度の期間残るかは、買い手との交渉によって決まります。ご自身の希望と買い手側の意向をすり合わせたうえで、条件を取り決めることになります。

残る形態の選択肢
売却後に医療法人に残る場合、いくつかの形態が考えられます。

まず、管理者(院長)兼理事として残る方法があります。理事長は辞任するものの、診療所の管理者として診療を継続するケースです。医療法人が開設する診療所の管理者は、原則としてその医療法人の理事でなければならないため、管理者として残る場合は理事にも就任することになります。買い手が医師ではない場合や、すぐに後任の管理者を確保できない場合などに、一定期間この形態で残ることが求められることもあります。

次に、理事のみとして残る方法があります。管理者にはならず、一般の理事として経営に関与するケースです。ただし、実際には新しい経営体制との関係で難しい場合も多く、このパターンは比較的少数です。

勤務医として残る方法もあります。理事を辞任し、雇用契約を結んで勤務医として診療を継続するケースです。経営には関与せず、診療に専念する形になります。

顧問・アドバイザーとして残る方法もあります。一定期間、顧問契約や業務委託契約を結び、引継ぎのサポートや患者対応の助言などを行うケースです。常勤ではなく、週に数日、あるいは必要に応じて対応するといった柔軟な形態をとることもできます。

買い手が残留を希望するケース
買い手側から、売却後も一定期間残ってほしいと依頼されることは珍しくありません。特に、患者との信頼関係が強い場合、専門性の高い診療を行っている場合、スタッフとの関係が良好で引継ぎ期間が必要な場合などは、買い手にとっても現理事長に残ってもらうメリットがあります。

このような場合、残留期間や業務内容、報酬などを契約で明確に定めておくことが大切です。

残る場合の注意点
立場の変化を理解することが重要です。売却後は、たとえ残ったとしても経営権は買い手に移っています。これまで自分の判断で決めてきたことも、新しい経営者の方針に従う必要があります。この変化に適応できるかどうか、ご自身の気持ちも含めてよく考えておく必要があります。

報酬や処遇についても、事前に明確にしておくことが大切です。管理者兼理事として残る場合の役員報酬、勤務医や顧問として残る場合の報酬額、勤務日数、業務内容などを曖昧にしたまま売却を進めると、後からトラブルになる可能性があります。これらの条件は売却契約とは別に、書面化しておきます。

残留期間についても取り決めが必要です。「しばらくの間」といった曖昧な約束ではなく、「クロージングから1年間」「○年○月まで」といった具体的な期間を定めておくことで、双方の認識のずれを防ぐことができます。また、期間満了後に延長する場合の条件や、途中で辞める場合の取り扱いについても確認しておくとよいでしょう。

競業避止義務との関係にも注意が必要です。売却契約において、売り手に競業避止義務(一定期間、同一地域で競合する診療所を開設しないなどの義務)が課されることがあります。残留後に独立して開業する可能性がある場合は、競業避止義務の内容を確認し、将来の選択肢を狭めすぎないよう交渉しておくことも重要です。

残らないという選択
もちろん、売却を機に完全に引退するという選択肢もあります。長年の診療から離れることに寂しさを感じる方も多いですが、一方で、新しい経営者のもとで以前と同じように働くことにストレスを感じる方もいます。ご自身の体力、気持ち、今後の人生設計を踏まえて、どのような形が最も良いかを考えてください。

いずれにしても、売却後の関与の有無や形態は、売却条件の重要な要素のひとつです。早い段階でご自身の希望を整理し、買い手との交渉の中で明確に伝えることが大切です。

Q. 医療法人に対する理事長からの貸付金がありますが、どうすればよいですか?

医療法人の経営において、理事長個人が法人に資金を貸し付けているケースは珍しくありません。この理事長貸付金は、売却時に適切に処理する必要があります。

処理方法の選択肢
主に以下の方法があります。

第一に、売却前に医療法人から返済を受ける方法です。最もシンプルですが、法人に十分な資金がなければ実行できません。

第二に、売却代金の調整として処理する方法です。出資持分の評価額に理事長貸付金を加算した総額を買い手が支払い、そのうち貸付金相当額が売り手に支払われる形です。実務上はこの方法が多く採用されています。

第三に、買い手に債務として引き継いでもらう方法です。売却後に新経営陣のもとで返済してもらいますが、確実に返済されるよう契約書で明確に定めておく必要があります。

注意点
売却に際しては、貸付金の正確な残高を確認し、発生時期や返済履歴などを整理しておくことが重要です。金銭消費貸借契約書がない場合は、残高確認書を作成しておくことが望ましいでしょう。

また、売却対価の配分(出資持分譲渡代金、退職慰労金、貸付金返済など)によって税負担が変わることがあります。どのような配分が有利かは個別の状況によって異なりますので、税理士に相談して検討されることをお勧めします。

Q. 売却を検討していることを、スタッフや患者に知られたくないのですが、秘密は守れますか?

売却の検討段階で情報が漏れることへの不安は、多くの方が抱える心配事です。結論から申し上げると、適切に進めれば秘密を守ることは十分に可能です。

秘密保持の仕組み
M&A仲介会社やアドバイザーに依頼する場合、まず秘密保持契約(NDA)を締結します。仲介会社は守秘義務を負い、売却情報を無断で第三者に開示することはありません。

買い手候補への情報提供も段階的に行われます。最初の段階では、法人名や所在地を伏せた「ノンネームシート」と呼ばれる概要資料のみを提示し、買い手候補が関心を示した場合に限り、秘密保持契約を締結したうえで詳細な情報を開示します。

情報漏洩が起きやすい場面
一方で、注意が必要な場面もあります。

ご自身の周囲への相談には気をつけてください。信頼できる方であっても、何気ない会話から情報が広がることがあります。相談相手は必要最小限にとどめることが賢明です。

買い手候補による現地視察の際も注意が必要です。診療所の内覧を希望される場合、診療時間外に行う、別の目的を装うなどの配慮が求められます。

また、仲介会社の選定も重要です。医療業界に精通し、情報管理体制がしっかりした会社を選ぶことで、漏洩リスクを低減できます。

スタッフ・患者への開示のタイミング
スタッフや患者への開示は、売却契約が確定した段階で行うのが一般的です。開示が早すぎると、スタッフの動揺や離職、患者の不安につながる可能性があります。開示のタイミングや伝え方については、買い手とも協議のうえ、慎重に進めることが大切です。

秘密保持は売却成功の重要な要素です。仲介会社とよく相談しながら、情報管理に細心の注意を払って進めてください。

事務所情報
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事務所代表・記事監修
中村弥生の写真
中村 弥生(なかむら やよい)

渋谷区の医療法人の事務長として、総務・経理・各種手続き業務を統括。
退職後、税理士事務所勤務を経て、2006年に行政書士事務所を開業。以来、医療法人専門の行政書士事務所として業務を行っている。
行政書士向けに「医療法人の行政手続き実務講座」を開講。
2025年1月、書籍「はじめてでもミスしない いちばんわかりやすい医療法人の行政手続き」を出版。

【実績】 医療法人の設立100件以上、定款変更300件以上。保健所、厚生局手続き300件以上。役員変更や決算届出等2,000件以上。

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