医療法人のM&A実務(売却編)①:クリニック売却を考え始めたら:売却の選択肢と判断基準
クリニック経営の将来について考えるとき、多くの医師が直面するのが「このクリニックをどうするか」という問題です。高齢化、後継者不足、体力的な限界など、様々な理由でクリニックの継続が難しくなる時期は必ず訪れます。
本記事では、クリニック売却を検討し始めた段階で知っておくべき選択肢と判断基準について解説します。
クリニックの出口戦略:3つの選択肢
クリニックの将来には、大きく分けて3つの選択肢があります。
1. 廃業(閉院)
最もシンプルな選択肢ですが、多くのデメリットがあります。長年築いてきた患者基盤、地域での信頼、医療資源がすべて失われます。設備の処分費用、原状回復費用、スタッフへの退職金など多額の費用が必要になる一方、売却益は得られません。
2. 親族・第三者への事業承継
親族や勤務医などへの承継は理想的ですが、実現のハードルは高いのが現実です。医師免許を持つ後継者の確保、経営能力の育成、出資持分の移転に伴う税務負担など、多くの課題があります。適切な後継者育成には5年以上の期間が必要とされています。
3. M&Aによる売却
近年注目されているのが、医療法人等へのM&Aによる売却です。売却益が得られるだけでなく、患者基盤の継続、スタッフの雇用維持、地域医療の継続という多くのメリットがあります。多院展開を目指す医療法人、新規開業を検討する医師など、売却先は多様です。
売却を検討すべきタイミングのサイン
以下のような状況になったら、売却を検討し始める時期かもしれません。
年齢・体力面のサイン
- – 65歳を超え、体力的な衰えを感じ始めた
- – 夜間・休日の診療対応が負担になってきた
- – 健康上の不安が出てきた
経営面のサイン
- – 患者数が減少傾向にある
- – 新規設備投資の判断に迷う
- – スタッフの採用・定着が困難になった
後継者面のサイン
- – 子供が医師になったが継ぐ意思がない
- – 適切な後継者が見つからない
- – 後継者育成に必要な時間的余裕がない
売却に適したクリニックの特徴
すべてのクリニックが売却に適しているわけではありません。以下のような特徴があるクリニックは、売却の可能性が高くなります。
立地条件
駅近、幹線道路沿いなどアクセスが良い、人口密集地域にある、競合が少ない診療圏にあるクリニックは高く評価されます。
経営状態
安定した患者数(1日30名以上が目安)、黒字経営が継続、借入金が少ないことが重要です。
設備・内装
設備が比較的新しい(10年以内)、内装が清潔、電子カルテ導入済みであることはプラス評価になります。
スタッフ
経験豊富なスタッフが定着、離職率が低いことは大きな魅力です。
診療内容
地域で需要の高い診療科、専門性のある診療、保険診療中心であることが望ましいです。
売却決断前に確認すべき5つのポイント
売却を決断する前に、以下の5点を必ず確認してください。
1. 売却のタイミング
売却には準備期間として2-3年が必要です。急な売却は不利な条件になりがちです。
2. 希望する売却条件
価格だけでなく、診療方針の継続、スタッフの雇用、患者への配慮など、何を重視するか明確にします。
3. 家族の理解
配偶者や親族の理解と協力は不可欠です。特に医療法人の場合、出資持分の相続との関係も検討が必要です。
4. 経済的な見通し
売却後の生活資金、老後資金が十分か確認します。売却益だけでなく、退職金、年金なども含めた総合的な判断が必要です。
5. 専門家への相談タイミング
M&A仲介会社、税理士、行政書士など、早期に専門家へ相談することで、より良い条件での売却が可能になります。
まとめ
クリニック売却は、廃業や事業承継と比較して、経済的・社会的に多くのメリットがある選択肢です。ただし、適切な準備と専門家のサポートが不可欠です。
次回は、「クリニック売却の準備期間:なぜ2-3年前から始めるべきか」について解説します。






