医療法人のM&A実務(売却編)⑤:クリニック価値の自己評価:売却価格の相場を知る
売却交渉を始める前に、自分のクリニックがどのくらいの価値があるのかを把握しておくことは非常に重要です。相場を知らずに交渉すると、不当に安い価格で売却してしまうリスクがあります。
本記事では、クリニックの価値を自己評価する方法と、売却価格の相場について解説します。
クリニック評価の3つの視点
クリニックの価値は、以下の3つの視点から評価されます。
立地条件の評価
駅からの距離として、徒歩5分以内は5点、徒歩10分以内は4点、徒歩15分以内は3点、それ以上は2点と評価します。
幹線道路へのアクセスとして、面している・至近は5点、徒歩5分以内は4点、徒歩10分以内は3点、それ以上は2点と評価します。
駐車場として、十分な台数ありは5点、数台ありは3点、なしは1点と評価します。
競合状況として、診療圏内に競合なしは5点、競合1-2件は4点、競合3-4件は3点、競合5件以上は2点と評価します。
診療圏の評価
人口密度として、診療圏内(半径500m)の人口1万人以上は5点、5千-1万人は4点、3千-5千人は3点、3千人未満は2点と評価します。
人口動態として、増加傾向は5点、安定は3点、減少傾向は2点と評価します。
高齢化率として、診療内容に適した高齢化率であれば高評価となります。
経営状況の評価
患者数として、1日50名以上は5点、1日30-50名は4点、1日20-30名は3点、1日20名未満は2点と評価します。
収益性として、営業利益率20%以上は5点、15-20%は4点、10-15%は3点、10%未満は2点と評価します。
安定性として、3年以上黒字継続は5点、2年連続黒字は4点、単年度黒字は3点、赤字は1点と評価します。
簡易評価シートによる自己診断
各項目を5段階で評価し、合計点で価値を判断します。
評価項目
立地・アクセス(5点満点)、診療圏の人口(5点満点)、競合状況(5点満点)、患者数(5点満点)、収益性(5点満点)、安定性(5点満点)、スタッフの質(5点満点)、設備の状態(5点満点)、電子カルテ導入(5点満点)の9項目で評価します。
判定基準
40-45点は非常に高い評価で、プレミアム価格が期待できます。30-39点は高評価で、相場以上の価格が期待できます。20-29点は標準的評価で、相場価格が妥当です。10-19点はやや低い評価で、改善の余地があります。9点以下は低い評価で、大幅な改善が必要です。
設備・医療機器の価値評価
設備や医療機器の価値も評価に含まれます。
評価方法
取得価格と経過年数から、時価を推定します。一般的な医療機器の耐用年数は6年ですが、実際の使用可能年数はより長いことが多いです。
評価の目安
購入後3年以内は取得価格の50-70%、購入後3-6年は取得価格の30-50%、購入後6-10年は取得価格の10-30%、購入後10年超は取得価格の0-10%程度です。
ただし、メンテナンス状況により大きく変動します。定期点検を実施、良好な状態であれば高評価となります。
主要設備の確認
電子カルテシステム、X線装置、超音波診断装置、内視鏡、心電図、その他の検査機器などをリストアップし、それぞれの時価を算定します。
患者基盤の価値評価
安定した患者基盤は、クリニックの最大の資産です。
患者数の評価
1日当たり患者数、月間患者数、年間患者数を確認します。過去3年間の推移を見て、増加傾向・安定・減少傾向を判断します。
患者の質の評価
定期通院患者(慢性疾患等)の割合が高いほど高評価です。新規患者の獲得状況も重要で、月間新規患者数、新規患者の定着率を確認します。
かかりつけ患者の割合として、長期通院患者(5年以上)の割合、高齢患者の割合(継続性が高い)を評価します。
評価額の算定方法
以上の評価を総合して、売却価格の目安を算定します。
簡易算定式
時価純資産(資産の時価 – 負債)に、営業権(年間営業利益 × 2-3年分)を加算します。
具体例として、時価純資産3,000万円、年間営業利益2,000万円の場合、営業権は2,000万円 × 2.5年 = 5,000万円となり、評価額は3,000万円 + 5,000万円 = 8,000万円となります。
診療科目による調整
内科・小児科は倍率2.0-2.5倍が目安です。整形外科・皮膚科は倍率2.5-3.0倍が目安です。歯科は倍率1.5-2.0倍が目安です。
立地による調整
都心部・駅近は+20-30%程度の評価増となります。郊外・駅遠は-10-20%程度の評価減となります。
相場価格の確認方法
自己評価が妥当かどうか、相場と比較します。
M&A仲介会社への相談
複数の仲介会社に相談し、概算評価を依頼します。各社の評価額を比較し、平均値を参考にします。
類似案件の情報収集
同じ診療科目、同規模、同地域の売却事例を収集します。ただし、詳細な情報は公開されていないことが多いため、仲介会社からの情報提供が有効です。
税理士・会計士への相談
企業価値評価に詳しい税理士・会計士に依頼します。専門的な評価手法(DCF法等)による算定も可能です。
過大評価・過小評価のリスク
適切な評価が重要です。
過大評価のリスク
買い手が見つからず、交渉が長期化します。大幅な値下げを求められ、不利な交渉になる可能性があります。
過小評価のリスク
本来の価値より安く売却してしまい、数千万円単位の損失になることがあります。買い手から「何か問題があるのでは」と疑われる可能性があります。
まとめ
クリニックの価値を正確に把握することは、売却交渉の出発点です。立地、診療圏、経営状況、設備、患者基盤など、多角的に評価します。
自己評価は参考値として、複数の専門家の意見を聞き、適正な価格レンジを把握することが重要です。過大評価も過小評価も避け、客観的な評価に基づいて交渉を進めましょう。
次回は、「クリニック評価の3つの方法:コスト・マーケット・インカムアプローチ」について解説します。






