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医療法人のM&A実務(売却編)②:クリニック売却の準備期間:なぜ2-3年前から始めるべきか

クリニック売却:なぜ「2~3年前」の準備が成功の鍵なのか?

クリニック売却を成功させる最大の秘訣は「早期準備」です。多くの医師が「売却を決めたらすぐに買い手が見つかる」と考えがちですが、実際には準備不足による失敗事例が後を絶ちません。

本記事では、なぜクリニック売却に2-3年の準備期間が必要なのか、その理由と具体的なスケジュールについて解説します。

理想的な準備期間とスケジュール

クリニック売却の理想的なスケジュールは以下の通りです。

準備開始(3年前)

売却の意思決定と家族への相談から始めます。専門家への初回相談を行い、クリニックの現状分析と経営改善計画を策定します。

経営改善期(2-3年前)

この期間が最も重要です。財務体質の改善、患者数・診療単価の安定化、スタッフの定着率向上、設備・内装のメンテナンス、診療記録・経営資料の整備を進めます。

本格準備期(1-2年前)

M&A仲介会社を選定し、企業価値評価を実施します。売却資料を作成し、買い手候補の探索を開始します。

交渉・契約期(1年前-半年前)

買い手候補との面談、基本合意書の締結、デューデリジェンスへの対応、最終契約書の締結を進めます。

引継ぎ期(半年前-クロージング)

行政手続きの準備、従業員・患者への説明、引継ぎ業務の実施を行い、クロージングを迎えます。

早期準備の5つのメリット

1. 企業価値の向上

2-3年あれば、経営改善により企業価値を大幅に向上させることができます。患者数の増加、利益率の改善、スタッフの定着などにより、売却価格が数千万円単位で変わることも珍しくありません。

2. 有利な条件での交渉

時間的余裕があれば、複数の買い手候補を比較検討できます。急いで売却する場合と比べ、価格面でも条件面でも有利な交渉が可能になります。

3. 適切な買い手の選定

理想的な買い手を見つけるには時間がかかります。診療方針の継続、スタッフの雇用維持、患者への配慮など、価格以外の条件も重視できます。

4. 税務対策の実施

出資持分の評価引き下げ、退職金の準備、譲渡時期の調整など、税務対策には時間が必要です。適切な対策により、手取り額が大幅に増えることがあります。

5. 関係者への配慮

スタッフや患者への説明、地域医療機関との調整など、丁寧な対応には時間が必要です。急な売却は混乱を招き、クリニックの評価を下げる原因になります。

準備不足で起こるトラブル事例

実際の失敗事例から学ぶことは多くあります。

事例1:低価格での売却

70歳の内科医A先生は、健康上の理由で急遽売却を決定しました。準備期間が3ヶ月しかなく、1社としか交渉できませんでした。結果、本来の価値の60%程度での売却となり、数千万円の損失を被りました。

事例2:買い手とのミスマッチ

準備不足で最初の買い手候補と急いで契約したB先生。しかし、診療方針の違いが明らかになり、契約後にトラブルが発生しました。最終的に契約解除となり、1年以上の時間を無駄にしました。

事例3:行政手続きの遅延

準備不足で行政手続きを後回しにしたC先生。保健所・厚生局の手続きに想定以上の時間がかかり、診療空白期間が発生しました。患者が他院に流れ、クリニックの価値が大幅に下落しました。

年齢・健康状態からの逆算スケジュール

売却準備は、自身の年齢と健康状態から逆算して開始時期を決めるべきです。

60歳の場合

63-65歳での売却を目標に、準備開始が理想的です。まだ体力があるうちに経営改善を行い、最良の状態で売却できます。

65歳の場合

67-68歳での売却を目標に、すぐに準備を開始すべきです。経営改善期間は短くなりますが、まだ準備の余地があります。

70歳以上の場合

できるだけ早く専門家に相談し、効率的な準備を進める必要があります。健康状態によっては、一部の準備を省略することも検討します。

急な売却が必要になった場合の対応

病気や事故など、やむを得ず急な売却が必要になることもあります。

専門家の早期活用

M&A仲介会社、税理士、行政書士など、複数の専門家に同時並行で依頼し、スピードを上げます。

価格条件の柔軟化

時間がない分、価格面では譲歩が必要になる場合があります。最も重視する条件を明確にし、それ以外は柔軟に対応します。

段階的な引退の検討

完全引退ではなく、売却後も一定期間診療を継続する条件で交渉することも有効です。これにより、買い手の不安を軽減できます。

まとめ

クリニック売却は「思い立ったらすぐ」ではなく、「思い立ったら準備開始」が正解です。2-3年の準備期間があれば、企業価値の向上、有利な条件での交渉、適切な買い手の選定が可能になります。

まだ体力と判断力がしっかりしているうちに、早めの準備を開始することをお勧めします。

次回は、「売却前の経営改善:企業価値を最大化する6つのポイント」について解説します。

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中村 弥生(なかむら やよい)

渋谷区の医療法人の事務長として、総務・経理・各種手続き業務を統括。
退職後、税理士事務所勤務を経て、2006年に行政書士事務所を開業。以来、医療法人専門の行政書士事務所として業務を行っている。
行政書士向けに「医療法人の行政手続き実務講座」を開講。
2025年1月、書籍「はじめてでもミスしない いちばんわかりやすい医療法人の行政手続き」を出版。

【実績】 医療法人の設立100件以上、定款変更300件以上。保健所、厚生局手続き300件以上。役員変更や決算届出等2,000件以上。

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