医療法人のM&A実務(売却編)③:売却前の経営改善:企業価値を最大化する6つのポイント
クリニックの売却価格は、現在の経営状態で決まります。売却を決めてから慌てて改善しようとしても手遅れです。2-3年前から計画的に経営改善を進めることで、売却価格を数千万円単位で引き上げることが可能です。
本記事では、企業価値を最大化するための6つの経営改善ポイントについて解説します。
1. 財務体質の改善
買い手が最も重視するのが財務状況です。
利益率の向上
診療単価の適正化を図り、無駄なコストを削減します。不採算部門の見直しを行い、利益率を改善します。目標は営業利益率15%以上で、最低でも10%以上を確保します。
借入金の削減
可能な範囲で借入金を返済し、財務健全性を高めます。借入金が多いと、買い手の資金調達が困難になり、売却価格が下がる要因となります。
個人経費の分離
個人的な支出を法人経費から分離します。車両費、交際費、旅費などの個人利用分を明確に区分し、本来の収益力を示します。
運転資本の適正化
在庫(医薬品・医療材料)を適正水準に保ち、売掛金の回収を徹底します。買掛金の支払いサイトを適正化し、健全なキャッシュフローを維持します。
2. 患者基盤の安定化
安定した患者数は、クリニックの価値の根幹です。
患者数の維持・増加
既存患者の満足度向上に注力し、リピート率を高めます。新規患者の獲得施策として、ホームページの充実、口コミ対策、地域での認知度向上を図ります。目標は月間患者数の安定化で、前年比±5%以内に収めます。
患者層の分析
年齢層、疾患別、来院頻度などを分析し、主要患者層を明確にします。特定の患者に依存しすぎていないか確認し、バランスの良い患者構成を目指します。
診療圏の把握
患者の居住地域を分析し、診療圏を明確にします。競合クリニックとの関係、地域の人口動態、将来性などを把握し、買い手に説明できるようにします。
3. スタッフの定着と育成
優秀なスタッフは、クリニックの大きな資産です。
離職率の低下
働きやすい職場環境を整備し、適正な給与水準を維持します。スタッフとのコミュニケーションを密にし、不満や悩みを早期に把握して対応します。目標は年間離職率10%以下です。
スタッフのスキルアップ
定期的な研修機会を提供し、資格取得を支援します。各スタッフの役割を明確にし、責任感とやりがいを持たせます。
組織体制の整備
看護師長、事務長などの中核人材を育成し、院長不在でも運営できる体制を構築します。マニュアルを整備し、業務の属人化を避けます。
4. 診療報酬請求の適正化
診療報酬の適正請求は、信頼性の証です。
請求漏れの防止
算定可能な項目の見落としがないか定期的にチェックし、施設基準の取得・維持を確実に行います。レセプト点検を徹底し、請求漏れを防ぎます。
査定・返戻の削減
査定率・返戻率を分析し、原因を究明します。カルテ記載を充実させ、適切な病名管理を行います。目標は査定率1%以下です。
施設基準の活用
取得可能な施設基準を確認し、必要に応じて新規取得します。既存の施設基準を確実に維持し、算定実績を把握します。
5. 設備・内装の整備
見た目の印象も、評価に影響します。
必要な設備投資
老朽化した医療機器は計画的に更新します。ただし、売却直前の大型投資は避け、費用対効果を慎重に検討します。
内装のメンテナンス
清潔感のある内装を維持し、必要に応じて小規模なリフォームを実施します。待合室、診察室、トイレなどを清潔に保ちます。
IT化の推進
電子カルテ未導入の場合は、導入を検討します。予約システム、会計システムなどの整備も有効です。ただし、売却直前の大規模システム変更は避けます。
6. 経営資料の整備
正確な資料は、買い手の信頼を得る基本です。
財務資料の整備
過去3-5年分の決算書、月次試算表、総勘定元帳を整理します。患者数推移、診療科目別収益などのデータを整備します。
契約書類の整理
不動産賃貸借契約、設備リース契約、スタッフの雇用契約、取引先との契約など、すべての契約書を整理します。
許認可書類の確認
診療所開設許可証、保険医療機関指定通知書、各種施設基準届出書、医師免許証など、必要な書類がすべて揃っているか確認します。更新が必要な許認可は、期限を管理し確実に更新します。
診療記録の整備
カルテ、検査データ、画像データなどを整理し、保管状況を良好に保ちます。電子カルテの場合は、データのバックアップを確実に取ります。
改善の優先順位
すべてを一度に改善するのは困難です。以下の優先順位で進めることをお勧めします。
最優先(必須)
財務体質の改善、患者数の安定化、経営資料の整備は必須です。
優先(重要)
スタッフの定着、診療報酬請求の適正化は重要です。
可能であれば実施
設備の更新、内装の改修は、予算と相談しながら実施します。
改善効果の測定
改善の効果を定期的に測定し、進捗を管理します。
月次での確認項目
患者数、診療単価、月間売上、営業利益、スタッフの離職状況などを確認します。
四半期での確認項目
利益率の推移、借入金残高、査定率・返戻率、患者満足度などを確認します。
年次での確認項目
年間売上・利益、スタッフの定着率、設備の更新状況、企業価値の推定などを確認します。
まとめ
クリニックの企業価値を最大化するには、財務、患者、スタッフ、診療報酬、設備、資料の6つの側面から計画的に改善を進めることが重要です。
2-3年の準備期間があれば、これらの改善を着実に実施でき、売却価格を大幅に引き上げることが可能になります。できることから一つずつ、着実に進めていきましょう。
次回は、「財務諸表の整理と問題点の洗い出し」について解説します。






