医療法人のM&A実務(売却編)㉔:患者への告知と引継ぎ:信頼関係を維持する対応方法
長年診療してきた患者への配慮は、医師としての最後の責務です。適切な告知と丁寧な引継ぎが、地域医療の継続と患者の安心につながります。
本記事では、患者への告知方法、カルテの引継ぎ、転院支援について解説します。
患者への告知タイミング
患者への告知は、早すぎても遅すぎても問題が生じます。
最適なタイミング
クロージング1-2ヶ月前、従業員への説明が終わり新院長が確定した段階が一般的です。早すぎると不安による患者離れや情報の拡散を招き、遅すぎると不信感や混乱の原因となります。
段階的な告知
クロージング2ヶ月前に院内掲示やホームページで告知を開始し、1ヶ月前にはかかりつけ患者への手紙や個別説明を行います。直前には最終確認の掲示を行い、新体制への移行を明示します。
告知方法(院内掲示・手紙等)
様々な方法を組み合わせて、確実に情報を伝えます。
院内掲示とホームページ
待合室の目立つ場所に掲示し、売却の事実、新院長の紹介、診療継続の旨、感謝の言葉を記載します。ホームページには経歴や写真、Q&Aコーナーを設けるとより安心感を与えられます。
患者への手紙と口頭説明
かかりつけ患者や慢性疾患の定期通院者には、個別に手紙を発送します。また、診察時にも直接、売却理由や新院長の人柄を説明し、疑問に答える時間を設けることが重要です。
カルテ・診療情報の引継ぎ
患者情報の適切な引継ぎは、診療継続の要です。
引継ぎの法的手続き
事業譲渡の場合は、個人情報保護法に基づきカルテ提供への患者の同意が必要です。包括的な院内掲示や個別の同意書で取得します。持分譲渡の場合は、法人内の承継となるため個別の同意は不要です。
紙・電子データの移行
紙カルテは物理的な整理と保管場所の確保を行い、電子カルテはシステム継続の有無に応じたデータ移行作業を実施します。血液検査や画像データ(X線・超音波等)も漏れなく引き継ぎます。
予約患者への対応
既に予約している患者への対応は特に重要です。
予約の承継
クロージング後の予約は自動的に新院長へ引き継ぎ、患者に事前通知します。予約システムのデータ移行を確実に行い、定期通院患者には診療継続を改めて保証して不安の解消を図ります。
かかりつけ患者への個別説明
長年通院している患者には、個別の配慮が必要です。
対象と方法
5年以上の通院歴がある方や高齢者などを対象に、診察の最後に時間を取って丁寧に説明します。家族の同席を認めたり、新院長との顔合わせの機会を提供したりすることも有効です。
不安への寄り添い
「薬が変わらないか」「今の治療を続けてもらえるか」といった具体的な不安に対し、カルテが完全に引き継がれることを強調し、安心感を与えます。
地域医療機関への挨拶
紹介元・紹介先医療機関への配慮も忘れてはいけません。
連携先への配慮
紹介元の病院や連携先の介護施設などに挨拶状を送付します。特に重要な連携先には新院長を伴って訪問し、対面で「顔つなぎ」を行うことで、売却後もスムーズな地域連携を維持できます。
転院希望者への対応
売却を機に転院を希望する患者もいます。
円滑な支援
無理な引き留めは避け、本人の意思を尊重します。求めに応じて速やかに診療情報提供書(紹介状)を作成し、適切な医療機関の紹介や予約の手配を行うなど、最後まで責任を持って対応します。
まとめ
患者への告知と引継ぎは、医師としての最後の責務です。長年の信頼関係を大切にし、患者の立場に立った丁寧な説明とカルテの確実な承継を行うことが、地域医療を守ることにつながります。
円滑な引継ぎを実現することは、新院長への最大の後押しとなり、クリニックの未来を支える基盤となります。
次回は、最終回「売却後の税務と資金活用:手取り額を最大化する戦略」について解説します。






