HOME医療法人 行政手続きブログ > 医療法人のM&A実務(売却編)⑮:売却契約書の重要条項:トラブルを防ぐチェックポイント

医療法人のM&A実務(売却編)⑮:売却契約書の重要条項:トラブルを防ぐチェックポイント

医療法人MアンドA:トラブルを防ぐ「最終譲渡契約書」の重要ポイント

デューデリジェンスが完了したら、最終的な売却契約書を締結します。契約書は売却後のトラブルを防ぐ最も重要な文書です。

本記事では、契約書に盛り込むべき重要条項と、トラブルを防ぐためのチェックポイントについて解説します。

譲渡対象資産の明確化

契約書で最も重要なのが、何を譲渡するかの明確化です。

事業譲渡の場合

資産は個別に特定します。不動産は所在地・地番等で特定し、医療機器は品名・型番・シリアル番号で特定します。什器備品はリストを添付し、在庫(医薬品・医療材料)も同様にリスト化します。診療録・カルテ、電子カルテシステムも譲渡対象として明記します。

債務も特定が必要です。承継する債務(買掛金等)と承継しない債務(借入金等)を明確に区分します。

無形資産として、電話番号の使用権、ホームページのドメイン、診療所の名称使用権(継続する場合)なども記載します。

持分譲渡の場合

譲渡持分の割合、出資額、譲渡後の持分構成を特定します。

曖昧さの排除

「本件事業に関連する一切の資産」といった包括条項は避け、具体的にリスト化します。除外資産も「以下の資産は譲渡対象に含まれない」として明記します。

譲渡価格と支払条件

価格と支払方法を明確に規定します。

譲渡価格

金○○○万円(消費税別途 or 税込)と総額を明示し、必要に応じて内訳を記載します。クロージング時の運転資本調整、在庫の増減による調整、売掛金・買掛金の変動調整など、調整条項も盛り込みます。

支払条件

クロージング日に一括払い、または分割払い(スケジュール明記)とします。支払方法は銀行振込とし、振込先口座を明記します。手付金として、契約時に○○万円、クロージング時に残金という形も可能です。

分割払いの場合の注意点

金利を設定し(無利息 or 年○%)、遅延損害金の規定を設けます。担保として譲渡資産への抵当権設定、連帯保証人を求めます。支払遅延時の措置として、期限の利益喪失、契約解除権を規定します。

表明保証条項の範囲

売り手が「これらの事項は真実である」と保証する条項です。

典型的な表明保証事項

法人の適法性として、適法に設立され有効に存続している、契約締結の権限がある、定款・規程に違反していないことを保証します。

財務の正確性として、提供した財務諸表は正確である、簿外債務が存在しない、重要な事実の隠蔽がないことを保証します。

資産の状況として、譲渡対象資産を適法に所有している、第三者の権利による制約がない、資産は良好な状態にあることを保証します。

法令遵守として、医療法その他の法令を遵守している、行政処分を受けていない、係争中の訴訟がないことを保証します。

契約関係として、重要な契約を開示した、契約違反はないことを保証します。

範囲の調整

広すぎる表明保証は避けます。知り得ない事項は除外し、「知る限り」等の限定を付けます。重要性基準(金額基準)を設けることも有効です。

開示による免責として、開示した事項は表明保証違反としない、開示スケジュールを添付することで対応します。

競業避止義務の内容

売却後、売り手が競合クリニックを開設しないための条項です。

禁止される行為

地理的範囲は、クリニックから半径○km以内、○○市内など、合理的な範囲に限定します。禁止期間は2-5年が一般的で、過度に長期は無効リスクがあります。

禁止内容として、同一診療科での開業、競合クリニックへの勤務、患者の引き抜きを禁止します。

例外規定

合理的な例外として、買い手の同意がある場合、非競合地域での開業、異なる診療科での開業を認めます。

違反時の措置

損害賠償として、違反時の損害賠償額の予定、または実損害の賠償を規定します。差止請求として、違反行為の差止めを求める権利も明記します。

補償条項(インデムニティ)

表明保証違反や契約違反があった場合の補償条項です。

補償の対象

表明保証違反による損害、簿外債務(未払残業代、税務上のリスク、訴訟リスク)などが対象です。

補償の範囲

直接損害として、追加で支払った金額、失った利益を補償します。間接損害は含む or 含まない(要交渉)を明確にします。

補償の上限

金額上限は譲渡価格の○%、または金○○万円とします。期間制限は、クロージング後○年間、税務は時効まで(通常5年)とします。

免責事項

少額免責として、1件○○万円以下は補償対象外、合計○○万円を超えた部分のみ補償とすることもあります。

クロージング条件

契約締結とクロージング(譲渡実行)を分ける場合の条件です。

典型的な前提条件

行政手続きの完了として、保健所の許可取得(事業譲渡の場合)、その他必要な許認可を求めます。

第三者の同意として、不動産賃貸人の承諾、金融機関の承諾(借入金がある場合)を得ます。 デューデリジェンスとして、重大な問題が発見されないことを条件とします。

表明保証の正確性として、クロージング時点でも表明保証が真実であることを確認します。

条件未充足の場合

契約解除として、一定期日までに条件が充足されない場合、違約金なしで解除可能とします。期限延長として、双方合意で期限延長可能とします。

契約書作成の実務ポイント

専門家のレビュー

弁護士によるチェックで、法的リスクの確認、不利な条項の修正、曖昧な表現の明確化を行います。

行政書士によるチェックで、行政手続きとの整合性確認、許認可関連条項の確認を行います。

税理士によるチェックで、税務上の取扱いの確認、税負担の最適化を行います。

契約書の修正プロセス

ドラフトの作成は、通常、買い手側が初稿を作成するか、第三者(弁護士)が作成します。

修正の繰り返しとして、双方が修正案を出し合い、赤字で修正箇所を明示し、通常3-5回の修正を経ます。

最終確認として、全条項を再確認し、添付書類の整合性を確認し、金額・日付を再確認します。

契約締結時の注意

原本の作成として、双方が署名・押印した原本を2通作成し、各自1通ずつ保管します。

添付書類として、資産目録、開示スケジュール、その他の別紙を添付します。

よくあるトラブル事例と対策

事例1:譲渡対象の曖昧さ

「診療に関連する一切の資産」という曖昧な表現により、後日「これは含まれるのか」という紛争が発生しました。 対策として、具体的なリストを添付し、含まれるもの・含まれないものを明記します。

事例2:表明保証違反の発覚

クロージング後に未払残業代が発覚し、買い手から補償を求められました。 対策として、デューデリジェンスで徹底的に調査し、問題は事前に開示します。補償条項の範囲と上限を明確にしておくことも重要です。

事例3:支払遅延

分割払いの約束が守られず、回収に苦労しました。 対策として、一括払いを原則とし、分割の場合は担保設定、期限の利益喪失条項を入れます。

まとめ

売却契約書は、売却後のトラブルを防ぐための最も重要な書類です。譲渡対象、価格、表明保証、補償条項など、重要な条項を漏れなく盛り込む必要があります。

契約書案は必ず専門家にレビューしてもらい、不利な条項や曖昧な表現がないか確認しましょう。一度締結した契約は原則として変更できないため、締結前の慎重な検討が不可欠です。

次回は、「売却後の処遇交渉:売り手の引退後の役割」について解説します。

事務所情報
大岡山行政書士事務所の室内
大岡山行政書士事務所
〒145-0062 東京都大田区北千束3-20-8 スターバレーⅡ 402
【電 話】03-5499-3251(月~金 9:00~21:00)
【FAX】03-5539-4020
【メール】お問い合わせはフォームからお願いします(24時間対応)
事務所代表・記事監修
中村弥生の写真
中村 弥生(なかむら やよい)

渋谷区の医療法人の事務長として、総務・経理・各種手続き業務を統括。
退職後、税理士事務所勤務を経て、2006年に行政書士事務所を開業。以来、医療法人専門の行政書士事務所として業務を行っている。
行政書士向けに「医療法人の行政手続き実務講座」を開講。
2025年1月、書籍「はじめてでもミスしない いちばんわかりやすい医療法人の行政手続き」を出版。

【実績】 医療法人の設立100件以上、定款変更300件以上。保健所、厚生局手続き300件以上。役員変更や決算届出等2,000件以上。

ご相談はこちらから

ページの先頭へ