医療法人のM&A実務(売却編)㉑:厚生局手続き:保険医療機関廃止届と買い手の新規指定
事業譲渡では、保健所手続きに加えて厚生局での手続きも必要です。保険医療機関の指定がなければ、保険診療ができません。
本記事では、売り手の保険医療機関廃止届と、買い手が新規に保険医療機関指定を受ける手続きについて解説します。
保険医療機関指定の基本
保険医療機関とは、健康保険法に基づき、保険診療を行うことができる医療機関です。厚生労働大臣(実務は地方厚生局)の指定を受ける必要があります。
指定がない場合は、保険診療ができずすべて自費診療となるため、患者の経済的負担が極めて大きくなり、事実上診療所の運営は困難となります。事業譲渡においては、売り手が指定を廃止し、買い手が新規に指定を受ける手続きが必須となります。
売り手の保険医療機関廃止届
売り手は、診療所廃止に伴い保険医療機関の指定を廃止します。
提出先と提出方法
診療所所在地を管轄する地方厚生局(都道府県事務所)へ提出します。窓口持参のほか、書留による郵送、または一部の厚生局では電子申請も可能です。
必要書類
保険医療機関廃止届:厚生局指定の様式を使用し、廃止年月日(通常は最終診療日)と廃止理由(診療所廃止による等)を正確に記載します。
廃止のタイミングと診療報酬請求
月末日を廃止日とするのが最も一般的で、診療報酬請求の区切りもスムーズになります。廃止後であっても、最終月の請求権が消滅することはありません。通常通り翌月10日までに請求を行い、指定口座への振込を待ちます。
買い手の保険医療機関指定申請
買い手が個人医師でも医療法人でも、厚生局での手続きはほぼ同様です。
指定申請のタイミング
保健所での診療所開設届が受理され、その副本の交付を受けた後に申請が可能となります。通常、指定は毎月1日付けで行われますが、M&Aの実務では「遡及(そきゅう)適用」の制度を活用します。
遡及適用の重要性
遡及適用とは、開設届提出日に遡って指定を受けられる制度です。これにより、売り手の廃止日(月末)と買い手の開設日(翌月1日)を連続させることができ、診療空白期間をゼロにすることが可能となります。
審査と指定
申請書類の形式審査や保険医の登録状況確認を経て、「保険医療機関指定通知書」が交付されます。ここには10桁の医療機関コードや指定有効期間(6年間)が記載されています。
診療空白期間を作らないスケジュール
売り手と買い手の手続きを連動させることが成功の鍵です。
理想的なスケジュール
売り手:3月31日を最終診療日・廃止日とします。
買い手:4月1日を開設日とし、4月2日に開設届を提出、副本交付後すぐに(4月5日頃まで)指定申請を行います。
この流れにより、4月1日に遡って保険診療が可能となり、診療空白期間を完全に無くすことができます。
医療法人の場合の注意点
買い手が医療法人の場合、保健所での開設許可取得までに長期間(6~8ヶ月)を要しますが、厚生局への指定申請そのもののタイミングは個人医師の場合と同様です。
手続きの注意点
書類の完璧な準備
不備による差し戻しは、保険診療ができない期間を生むリスクに直結します。事前に厚生局へ必要書類や記載内容の確認を依頼しておくことが有効です。
専門家の活用
医療法人専門の行政書士に依頼することで、スケジュール管理から書類作成まで一括してサポートを受けることができ、確実な事業承継が可能となります。
まとめ
事業譲渡では、売り手は保険医療機関廃止届を、買い手は新規の指定申請を行う必要があります。この際、最も重要なのが「遡及適用」の活用です。売り手の廃止と買い手の開設を月をまたいで1日の空白もなく繋げることで、患者に迷惑をかけることなくスムーズな運営交代が実現します。
次回は、「持分譲渡における行政手続き:役員変更と各種届出」について解説します。






