HOME医療法人 行政手続きブログ > 医療法人のM&A実務(売却編)④:財務諸表の整理と問題点の洗い出し

医療法人のM&A実務(売却編)④:財務諸表の整理と問題点の洗い出し

医療法人売却に向けた「財務諸表の整理」ガイド

買い手によるデューデリジェンス(詳細調査)で最も詳しく調べられるのが財務状況です。財務諸表に問題があると、売却価格が大幅に下がるだけでなく、交渉が決裂する可能性もあります。

本記事では、売却前に実施すべき財務諸表の整理と問題点の洗い出し方法について解説します。

損益計算書(P/L)の確認ポイント

損益計算書は、クリニックの収益力を示す最も重要な資料です。

売上高の推移

過去3-5年の売上推移を確認し、増加傾向か、安定しているか、減少傾向かを把握します。減少傾向の場合は、その理由を説明できるようにします。月別の売上推移も確認し、季節変動や特異点を把握します。

利益率の分析

営業利益率を確認します。医科クリニックの目安は15-20%程度、歯科クリニックは10-15%程度です。利益率が低い場合は、原因を分析し改善策を検討します。経常利益率も確認し、営業外損益の影響を把握します。

費用項目の精査

人件費率を確認します。売上の30-40%が適正範囲です。材料費率も確認し、医科で10-15%、歯科で15-25%が目安です。経費の各項目を精査し、異常に高い項目がないか確認します。

個人経費の混入確認

個人的な飲食費、個人利用の車両費、家族旅行の旅費など、個人経費が混入していないか確認します。混入がある場合は、本来の利益を算定し直します。

貸借対照表(B/S)の確認ポイント

貸借対照表は、クリニックの財務健全性を示します。

資産の部の確認

現金預金は、適正水準(月商の2-3ヶ月分)を保っているか確認します。売掛金(診療報酬債権)は、2ヶ月分程度が正常で、それ以上は回収遅延の可能性があります。

棚卸資産(医薬品・医療材料)は、過剰在庫や期限切れがないか確認します。適正在庫は月間使用量の1-2ヶ月分です。固定資産(医療機器等)は、帳簿価額と実際価値に乖離がないか確認します。

負債の部の確認

買掛金は、支払サイトが適正か(通常1-2ヶ月)確認します。借入金は、残高と返済スケジュールを確認します。借入金が多いと、買い手の資金調達に影響します。

未払金・未払費用は、計上漏れがないか確認します。特に未払残業代、未払社会保険料に注意します。

純資産の部の確認

出資金を確認し、繰越利益剰余金の推移を確認します。純資産がマイナス(債務超過)の場合は、売却が困難になる可能性があります。

簿外債務の確認

帳簿に計上されていない債務(簿外債務)の有無を確認します。

典型的な簿外債務

未払残業代として、タイムカードと給与を照合し、未払分を算定します。社会保険・労働保険の未加入・未払として、スタッフの加入状況を確認し、未払保険料を算定します。

未払税金として、法人税、消費税等の未払分を確認します。リース債務も確認します。退職給付債務として、スタッフの退職金債務を算定します。

賃貸借契約の原状回復義務として、退去時の原状回復費用を見積もります。訴訟・紛争リスクとして、係争中の案件があれば、損失見込額を算定します。

確認方法

専門家(税理士、社会保険労務士)に依頼し、網羅的にチェックします。過去の税務調査結果を確認し、指摘事項がないか確認します。

個人経費の分離と本来利益の算定

個人経費が混入している場合、本来の利益を算定し直します。

分離すべき個人経費

個人的な飲食費、接待費のうち個人利用分、個人利用の車両費(ガソリン代、駐車場代等)、家族旅行等の旅費、個人的な書籍・雑誌代、配偶者や親族への過大給与などを分離します。

本来利益の算定方法

公表利益に個人経費を加算します。例えば、公表営業利益1,000万円、個人経費300万円の場合、本来の営業利益は1,300万円となります。この本来利益を買い手に説明し、企業価値算定の基礎とします。

過去3-5年分の決算書整理

買い手は過去の推移を重視します。

整理すべき資料

確定申告書(別表含む)、決算報告書(貸借対照表、損益計算書)、勘定科目内訳書、法人事業概況説明書、消費税申告書などを整理します。

推移表の作成

売上高、営業利益、経常利益、当期純利益の推移を一覧表にします。総資産、純資産、借入金の推移も一覧表にします。主要な経営指標(利益率、ROA等)の推移も確認します。

特異点の説明準備

大幅な増減があった年度について、その理由を説明できるようにします。例えば、設備投資、スタッフの大量採用、訴訟和解金の支払い、保険収入などです。

税務リスクの確認

税務上の問題がないか確認します。

確認すべき事項

過去の税務調査で指摘事項がなかったか、修正申告の履歴はないか、グレーゾーンの経費計上がないか、消費税の課税区分は適正か、源泉所得税の納付は適正かなどを確認します。

対応方法

問題がある場合は、税理士に相談し、修正申告が必要か判断します。問題点は買い手に事前開示し、隠さずに説明します。

会計処理の適正性確認

会計処理が適正に行われているか確認します。

確認ポイント

収益認識は適正か(診療報酬の計上時期等)、減価償却は適正に行われているか、棚卸資産の評価は適正か、引当金の計上は適正か、関連当事者との取引は適正かなどを確認します。

まとめ

財務諸表の整理と問題点の洗い出しは、売却準備の最重要項目です。損益計算書、貸借対照表を精査し、簿外債務がないか確認し、個人経費を分離して本来利益を算定します。

問題点を隠すのではなく、事前に把握して対策を講じることが、円滑な売却につながります。税理士等の専門家に依頼し、徹底的に確認することをお勧めします。

次回は、「クリニック価値の自己評価:売却価格の相場を知る」について解説します。

事務所情報
大岡山行政書士事務所の室内
大岡山行政書士事務所
〒145-0062 東京都大田区北千束3-20-8 スターバレーⅡ 402
【電 話】03-5499-3251(月~金 9:00~21:00)
【FAX】03-5539-4020
【メール】お問い合わせはフォームからお願いします(24時間対応)
事務所代表・記事監修
中村弥生の写真
中村 弥生(なかむら やよい)

渋谷区の医療法人の事務長として、総務・経理・各種手続き業務を統括。
退職後、税理士事務所勤務を経て、2006年に行政書士事務所を開業。以来、医療法人専門の行政書士事務所として業務を行っている。
行政書士向けに「医療法人の行政手続き実務講座」を開講。
2025年1月、書籍「はじめてでもミスしない いちばんわかりやすい医療法人の行政手続き」を出版。

【実績】 医療法人の設立100件以上、定款変更300件以上。保健所、厚生局手続き300件以上。役員変更や決算届出等2,000件以上。

ご相談はこちらから

ページの先頭へ