医療法人が法人名や診療所名を変更する場合の手続きの流れ

医療法人が法人名や診療所名を変更する際には、様々な手続きを適切なタイミングで行う必要があります。
本稿では、変更手続きのフローチャートと時系列スケジュール、そして担当者別のToDoリストについて詳細に解説します。
はじめに
法人名や診療所名の変更は、単なる名称の変更にとどまらず、定款変更認可申請から始まり、各種届出、実務的な変更作業まで多岐にわたります。
これらの手続きを適切なタイミングで漏れなく実施するためには、全体の流れを把握し、担当者ごとに役割分担することが重要です。
本稿では、名称変更を決定してから実際に新名称での診療を開始するまでの流れを、時系列に沿って解説します。
また、理事長、事務長、現場スタッフなど、担当者ごとのToDoリストも示しますので、円滑な名称変更の実施にお役立てください。
名称変更手続きのフローチャート
法人名や診療所名の変更には、大きく分けて「準備段階」「行政手続き段階」「実務変更段階」「周知段階」の4段階があります。
以下のフローチャートで全体の流れを確認しましょう。
時系列スケジュール
実際の名称変更を例として、時系列スケジュールを示します。
ここでは、9月1日に新名称で診療開始する場合の一般的なスケジュールを例に解説します。
【準備段階】【行政手続き段階】
【6月上旬】名称変更の検討・準備段階
- 名称変更の検討開始
- 新名称の候補リストアップ
- 類似名称の調査
- 保健所への事前相談
- 変更に伴う費用の見積もり
【6月中旬~下旬】内部決定段階
- 理事会の開催(名称変更の提案)
- 社員総会の招集通知発送
- 社員総会の開催(名称変更の決議)
- 議事録の作成
【7月上旬】定款変更認可申請段階
- 定款変更認可申請書類の作成
- 都道府県等への素案提出
- 事前審査対応
- 本申請準備(押印手配など)
【7月中旬~下旬】定款変更認可申請本申請・認可取得段階
- 定款変更認可申請の本申請
- 都道府県等からの補正対応
- 認可(8月上旬頃)
- 認可書到達(9月1日)
【8月上旬~9月】変更登記・届出段階
- 司法書士への依頼
- 変更登記申請
- 登記事項証明書(履歴事項全部証明書)の取得
- 保健所への届出
- 厚生局への届出
【実務変更段階】【周知段階】
【7月中旬~下旬】実務変更準備段階
- 新法人印・銀行印等の作成
- 看板・院内表示の変更準備
- 診察券・処方箋等の印刷物の発注
- ウェブサイト・メールアドレス等の変更準備
【8月上旬~中旬】周知段階
- 患者向け周知文書の作成・配布
- 院内掲示による周知
- 連携医療機関・取引先への通知
- ウェブサイト等での告知
【8月下旬】変更直前準備段階
- 看板等の設置
- 各種印刷物の入れ替え
- システム変更
- スタッフへの最終確認
【9月1日】新名称での診療開始
- 新名称での診療開始
- 患者・関係者からの問い合わせ対応
- 旧名称からの切り替え作業の最終確認
担当者別ToDoリスト
次に、担当者別のToDoリストを示します。
医療機関の規模や体制によって担当者は異なりますが、一般的な役割分担を想定しています。
理事長
6月上旬~中旬
- 名称変更の発案・検討
- 新名称案の決定
- 理事会の招集
- 名称変更の方針決定
6月下旬
- 社員総会での議案説明
- 社員総会議事録への押印
7月上旬~下旬
- 定款変更認可申請書への押印
- 行政機関からの質問対応
8月
- 新法人印の決定
- 主要取引先・連携医療機関への挨拶
- 変更に関する最終承認
9月
- 新名称での診療開始の宣言
- 患者・関係者への挨拶
事務長
6月上旬~中旬
- 名称変更の影響範囲の確認
- 費用見積もりの取得
- 類似名称の調査
- 保健所との事前相談
6月下旬
- 理事会・社員総会の準備
- 議事録の作成
7月上旬~下旬
- 定款変更認可申請書類の作成
- 都道府県等との対応窓口
- 本申請の実施
8月上旬~中旬
- 司法書士との連絡調整
- 登記関連書類の準備
- 保健所・厚生局への届出準備
8月中旬~9月
- 銀行口座等の名義変更手続き
- 契約書の名義変更対応
- 看板・印刷物等の発注管理
- 周知文書の作成・配布管理
8月下旬
- 変更直前の最終確認
- スタッフへの説明会実施
9月
- 各種届出
- 新名称移行後の問題対応
医事課担当者
6月~7月
- 診療報酬請求関連の変更確認
- レセプトシステムの変更準備
7月下旬~8月
- 患者向け周知の実施協力
- 診察券・処方箋等の在庫確認と発注
8月下旬
- レセプトシステムの変更テスト
- 旧診察券から新診察券への切替準備
9月
- 診療報酬請求事務の確認
- 患者からの問い合わせ対応
受付・看護スタッフ
8月上旬~中旬
- 患者向け周知の実施協力
- 名称変更に関する患者質問への回答準備
8月下旬
- 受付関連書類の切替準備
- 電話応対の変更準備
9月
- 新名称での患者対応
- 混乱が生じた場合のフォロー
システム担当者
7月中旬~下旬
- 電子カルテ等のシステム変更確認
- ウェブサイト変更準備
- メールアドレス変更準備
8月中旬~下旬
- システム変更テスト
- ウェブサイト・メールアドレスの切替作業
9月
- システム変更後の動作確認
- 不具合発生時の対応
具体的な準備と確認事項
担当者別ToDoリストに基づき、特に重要な準備と確認事項について詳細に解説します。
理事会・社員総会の準備と実施
理事会・社員総会では以下の議案について決議する必要があります。
- 法人名・診療所名の変更(具体的な新名称の決定)
- 定款変更の内容(第1条の名称、第4条の診療所名称等)
- 名称変更のスケジュール
- 名称変更に伴う費用の予算承認
議事録には、名称変更の理由、新名称、変更時期などを明記し、出席者全員の記名押印が必要です。
定款変更認可申請の準備
定款変更認可申請では以下の書類を準備します。
- 申請書
- 新旧条文対照表
- 新定款案
- 社員総会議事録
- 医療法人の登記事項証明書
- その他都道府県等が求める書類
素案提出の段階では押印不要のものが多いですが、本申請時には理事長印等の押印が必要になります。
変更登記の準備
変更登記には以下の書類が必要です。
- 登記申請書
- 定款変更認可書の原本
- 社員総会議事録
- 委任状(司法書士に依頼する場合)
登記手続きは認可取得後速やかに行う必要があります。
登記完了後に取得する登記事項証明書は、保健所や厚生局への届出に必要です。
保健所・厚生局への届出準備
保健所・厚生局への届出には以下の書類を準備します。
保健所
- 診療所名称変更届(または開設者名称変更届)
- 定款変更認可書の写し
- 登記事項証明書
- その他保健所が求める書類
厚生局
- 保険医療機関届出事項変更(異動)届
- 定款変更認可書の写し
- 登記事項証明書
- 保健所への届出書の写し
実務的な変更準備
実務的な変更には以下の準備が必要です。
- 印鑑(法人印、銀行印等)の作成
- 看板・標識の変更
- 診察券・処方箋・領収書等の印刷物の変更
- 封筒・名刺・レターヘッド等の変更
- ウェブサイト・メールアドレスの変更
- 電子カルテ等のシステム変更
これらの変更は、行政手続きが完了した後、実際の名称変更日に合わせて実施します。
周知の準備
患者や関係者への周知には以下の準備が必要です。
- 周知文書の作成
- 院内掲示物の作成
- ウェブサイトでのお知らせ文の作成
- 連携医療機関・取引先向け通知の作成
周知は名称変更の約1ヶ月前から開始し、変更後も一定期間継続することが望ましいです。
変更後の確認事項
名称変更後には以下の確認が必要です。
行政手続きの確認
- 登記が正しく完了しているか
- 保健所・厚生局への届出が受理されているか
- その他の届出(税務署、社会保険等)が完了しているか
実務的変更の確認
- 看板・標識が正しく変更されているか
- 印刷物が全て新名称になっているか
- システムが正しく変更されているか
- 旧名称の印刷物等が使用されていないか
患者・関係者の混乱防止
- 患者からの問い合わせに適切に対応できているか
- 旧名称での郵便物等の取扱いは問題ないか
- 関係者に周知が行き届いているか
まとめ
法人名や診療所名の変更は、多岐にわたる手続きと準備が必要です。
本稿で示した時系列スケジュールと担当者別ToDoリストを参考に、計画的に準備を進めてください。
特に行政手続きは時間がかかりますので、余裕を持ったスケジュールを組むことが重要です。
また、患者さんへの周知は特に重要です。特に高齢者や慢性疾患で通院中の患者さんには、混乱が生じないよう十分な配慮をお願いします。
計画的な準備と適切な役割分担により、円滑な名称変更を実現してください。
