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診療所移転の厚生局手続き(施設基準の届出)

オンライン受診の例

診療所移転の厚生局手続きにおいて、保険医療機関指定申請と並んで重要なのが「施設基準の届出」です。

診療報酬上の各種加算を算定するために必要なこの手続きを適切に行わなければ、移転後に算定できなくなる可能性があります。

本稿では、施設基準の届出に焦点を当て、詳細に解説します。

施設基準の届出の位置づけと重要性

施設基準とは

施設基準とは、医療機関が特定の診療報酬を算定するために満たすべき人員配置や設備、診療体制などの要件を定めたものです。
例えば、「情報通信機器を用いた診療に係る基準(オンライン診療)」「クラウン・ブリッジ維持管理料(歯科)」などがあります。

これらの施設基準を満たしていることを届け出ることで、初めて該当する加算等を算定することができます。

診療所移転における施設基準届出の重要性

診療所移転の場合、移転前に届出をしていた施設基準については、原則として再度届出が必要です。
ただし、2km以内の移転であれば、移転前の実績を引き継いで遡及算定が可能です。

この施設基準の届出を忘れたり、適切に行わなかったりすると、移転後に該当する加算等を算定できなくなり、診療報酬が大幅に減少する可能性があります。

施設基準の届出のタイミング

基本的なタイミング

施設基準の届出は、保険医療機関指定申請と同時に行うことが理想的です。
具体的には以下のようなタイミングになります。

例として、10月1日移転の場合のスケジュールを見ていきます。

  1. 定款変更認可申請(5月頃)
  2. 認可取得(8月頃)
  3. 登記申請
  4. 診療所開設許可申請(保健所・9月中旬)
  5. 実地検査
  6. 診療所開設許可
  7. 移転(10月1日)
  8. 診療所廃止届・開設届(保健所・10月初旬)
  9. 保険医療機関指定申請と施設基準届出(厚生局・10月10日頃まで)

届出の期限と算定開始日

施設基準の届出には、各厚生局が定める月ごとの締切日があります。
この締切日に間に合えば、原則として届出日の属する月の1日から算定可能となります。

移転の場合は、遡及指定と同様に、移転日に遡って算定開始となる場合がほとんどです。
ただし、これは2km以内の移転であることが前提です。

施設基準の届出方法

届出先

施設基準の届出先は、診療所の所在地を管轄する厚生局事務所です。
保険医療機関指定申請と同じ場所に提出します。

必要書類

施設基準の届出に必要な書類は、基本的に以下の通りです。

  • 施設基準等の届出書(表紙):すべての施設基準届出に共通の表紙となる書類です。
  • 施設基準ごとの届出様式:各施設基準に応じた専用の様式があります。
  • 添付書類:各施設基準に応じた添付書類(平面図、研修修了証のコピーなど)が必要です。

これらの書類は、厚生局のホームページからダウンロードすることができます。

届出書の作成方法

施設基準等の届出書(表紙)

表紙には以下の情報を記載します。

  • 保険医療機関の所在地・名称:移転後の所在地と名称を記載します。
  • 開設者名:医療法人の場合は「医療法人社団○○会 理事長○○○○」と記載します。
施設基準ごとの届出様式
各施設基準に応じた届出様式には、それぞれ必要事項を記載します。例えば、「情報通信機器を用いた診療に係る基準」の場合は、オンライン診療の実施体制や実績などを記載します。

移転の場合は、移転前の実績を記載することになります。
例えば、「9月の実績」を記載します。

届出に関する注意点

  • すべての施設基準を洗い出す:移転前に届け出ていた施設基準をすべて洗い出し、漏れなく届け出ることが重要です。
  • 要件の確認:各施設基準の要件を再確認し、移転後も要件を満たしていることを確認してください。
  • 研修要件の確認:研修修了が要件となっている施設基準については、研修の有効期限を確認し、必要に応じて再受講してください。
  • 複数部数の準備:厚生局提出用と控え用の最低2部を準備してください。

移転距離による違い

2km以内の移転の場合

移転前の診療所から半径2km以内(直線距離)の移転の場合、原則として移転前の実績を引き継ぐことができ、移転日に遡及して施設基準を算定することが可能です。

ただし、施設基準の届出自体は必要です。移転前と同じ施設基準の届出を行います。

2kmを超える移転の場合

移転前の診療所から半径2kmを超える移転の場合、原則として移転前の実績を引き継ぐことができません。
新規扱いとなり、届出受理後からの算定となります。

一部の施設基準では実績が必要な場合があり、その場合は実績が揃うまで算定できなくなる可能性があります。
特に注意が必要です。

基本診療料と特掲診療料の届出

施設基準の届出は、大きく「基本診療料」と「特掲診療料」の2種類に分けられます。
それぞれの特徴と代表的な施設基準について解説します。

基本診療料の施設基準

基本診療料の施設基準は、初・再診料や入院料などの基本的な診療報酬に関する施設基準です。診療所で一般的な基本診療料の施設基準には以下のようなものがあります。
  • 情報通信機器を用いた診療に係る基準:オンライン診療を実施するための施設基準です。
  • 時間外対応加算:診療時間外の対応体制に関する施設基準です。
  • 地域包括診療加算:複数の慢性疾患を有する患者に対する継続的な管理に関する施設基準です。

特掲診療料の施設基準

特掲診療料の施設基準は、医学管理料や在宅医療、検査、リハビリテーションなど、特定の診療行為に関する施設基準です。
診療所で一般的な特掲診療料の施設基準には以下のようなものがあります。

  • がん性疼痛緩和指導管理料:がん性疼痛の緩和に関する施設基準です。
  • 在宅時医学総合管理料:在宅患者の医学管理に関する施設基準です。
  • 歯科の場合、クラウン・ブリッジ維持管理料:歯科補綴物の維持管理に関する施設基準です。

届出後の対応

届出の受理確認

施設基準の届出を行った後、通常は「受理通知」が発行されます。
この通知には、受理された施設基準の名称と算定開始日が記載されています。

届出から1ヶ月程度経っても受理通知が届かない場合は、厚生局に問い合わせてください。

施設基準の遵守と定期報告

施設基準は届け出ただけでなく、継続して要件を満たしている必要があります。
定期的な報告が必要な施設基準もありますので、届出後も要件の遵守と必要な報告を忘れないようにしましょう。

算定開始の確認

保険医療機関指定通知書が届いたら、施設基準の算定開始日も確認してください。
通常、移転日(例:10月1日)に遡及して算定開始となります。

よくある質問と回答

最後に、施設基準の届出に関するよくある質問と回答をいくつか紹介します。

Q: 移転前と同じ施設基準は自動的に引き継がれますか?
A: いいえ、自動的には引き継がれません。移転の場合でも、すべての施設基準について改めて届出が必要です。
ただし、2km以内の移転であれば、移転前の実績を引き継いで移転日に遡及して算定することが可能です。
Q: 施設基準の届出を忘れていた場合はどうすればよいですか?
A: 気づいた時点で速やかに届出を行ってください。
ただし、届出日の属する月の1日(または届出が受理された日)からの算定となり、それ以前の期間は算定できません。遡及算定はできませんので、注意が必要です。
Q: 研修要件がある施設基準の場合、研修の有効期限が切れていたらどうすればよいですか?
A: 研修の有効期限が切れている場合は、再度研修を受講する必要があります。研修修了後に施設基準の届出を行うことになります。移転前に有効期限の確認と必要に応じた再受講をしておくことをお勧めします。

まとめ

診療所移転の厚生局手続きにおける施設基準の届出について解説しました。
施設基準の届出は、移転後も各種加算を算定するために不可欠な手続きです。

特に重要なのは、移転前に届け出ていたすべての施設基準を洗い出し、漏れなく届け出ることです。
また、2km以内の移転であれば移転前の実績を引き継げますが、2kmを超える場合は新規扱いとなる点にも注意が必要です。

施設基準の届出を適切に行い、移転後も円滑に診療報酬を算定できるようにしましょう。
そして、新しい場所での診療がスムーズに始められることを願っています。

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事務所代表・記事監修
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中村 弥生(なかむら やよい)

渋谷区の医療法人の事務長として、総務・経理・各種手続き業務を統括。
退職後、税理士事務所勤務を経て、2006年に行政書士事務所を開業。以来、医療法人専門の行政書士事務所として業務を行っている。
行政書士向けに「医療法人の行政手続き実務講座」を開講。
2025年1月、書籍「はじめてでもミスしない いちばんわかりやすい医療法人の行政手続き」を出版。

【実績】 医療法人の設立100件以上、定款変更300件以上。保健所、厚生局手続き300件以上。役員変更や決算届出等2,000件以上。

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