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診療所移転の保健所実地検査(時期とポイント)

病室の写真

診療所移転の際には、通常、保健所による実地検査が行われます。

この実地検査を通過しなければ、移転先での診療開始ができないため、非常に重要なステップです。

本稿では、保健所実地検査の時期とポイントについて詳細に解説します。

保健所実地検査の位置づけ

実地検査は、診療所開設許可申請を行った後、実際に移転先の診療所が医療法に定められた基準を満たしているかを確認するために行われます。
申請書に記載された内容と実際の構造設備が一致しているか、安全に診療を行える環境が整っているかを、保健所の担当者が現地で確認します。

この実地検査に合格して初めて診療所開設許可が下り、診療を開始することができます。
仮に不備があれば、その場で指摘を受け、是正が必要になりますので、事前の準備が非常に重要です。

実地検査の時期

実地検査の時期は保健所によって大きく異なりますが、一般的には以下の3つのパターンがあります。
10月1日移転の例で説明します。

一般的なフロー(実地検査①:移転前)

最も一般的なのは、診療所開設許可申請後、移転前に実地検査が行われるパターンです。

  • 9月中旬:診療所開設許可申請
  • 9月20日頃:実地検査
  • 9月末:診療所開設許可
  • 10月1日:移転
  • 10月初旬:診療所廃止届・開設届提出
  • 厚生局手続き

この場合、内装工事が完了し、医療機器などが設置された状態で、実際の診療開始前に検査が行われます。

この時期の実地検査がベストケースと言えます。
内装工事が終わったばかりの状態で検査を受けられるため、患者さんがいない状況で余裕をもって対応できます。

また、問題があった場合でも、移転日までに修正する時間があるため、予定通りの移転が可能です。

最もタイトなフロー(実地検査②:移転直後)

一部の保健所では、書類上の許可が先に下り、その後実際に移転してから実地検査が行われるパターンもあります。

  • 9月中旬:診療所開設許可申請
  • 9月末:書類上の許可
  • 10月1日:移転
  • 10月初旬:診療所廃止届・開設届提出
  • 10月3日頃:実地検査
  • 厚生局手続き

このパターンは非常にタイトなスケジュールになります。

既に移転して診療を開始した後に実地検査があるため、問題があった場合は診療を行いながら修正する必要があります。
このケースでは、事前の準備が特に重要になります。

実地検査が事後の場合(実地検査③:すべての手続き完了後)

すべての手続きが完了した後、例えば10月25日頃に実地検査が行われることもあります。

  • 9月中旬:診療所開設許可申請
  • 9月末:書類上の許可
  • 10月1日:移転
  • 10月初旬:診療所廃止届・開設届提出
  • 厚生局手続き
  • 10月25日頃:実地検査

この場合、既に診療が軌道に乗った状態での検査となります。

書類上の手続きが無事完了しているので日程的には比較的余裕がありますが、診療が本格的に始まった状態での検査となるため、現場の準備は万全にしておく必要があります。
問題があれば是正や追加書類の提出が必要になる場合もあります。

保健所による違い

実地検査の時期は、保健所ごとに大きく異なります。

そのため、診療所開設許可申請の際に、必ず保健所に実地検査がいつ頃行われるのかを確認することが非常に重要です。
時期によって準備の進め方や対応が大きく変わってきます。

実地検査のポイント

実地検査では、多くの点がチェックされます。
主なポイントを解説します。

管理者の立ち会い

実地検査では、管理者の先生の立ち会いが必須です。
スケジュール調整を行い、必ず当日は在席するようにしてください。管理者不在の場合、実地検査が行われないこともあります。

検査時には、管理者としての役割や責任、診療体制などについても質問されることがありますので、事前に準備しておくとよいでしょう。

原本提示

実地検査時には、以下のような書類の原本提示が求められる場合があります。

  • (歯科)医師免許証
  • 臨床研修修了登録証(医師の場合は平成16年4月以降、歯科医師の場合は平成18年4月以降に登録した場合)
  • 賃貸借契約書
  • 転貸承諾書(建物所有者と賃貸人が異なる場合)
  • 定款変更認可書(保健所によっては必要)

これらの書類は当日必ず用意しておきましょう。
特に臨床研修修了登録証は見つからないケースが多いので、早めに確認してください。

院内掲示

待合室等には以下の情報を掲示する必要があります。

  • 管理者氏名
  • 診療に従事する医師の氏名
  • 医師の診療日及び診療時間

この掲示内容は、診療所開設届に記載した内容と完全に一致している必要があります。

特に、クリニックの診療日時と管理者の勤務日時は一致させる必要があります。
一致していない場合は指導対象となります。

図面との一致

診療所開設許可申請書に添付した図面と、実地検査時の現地の構造設備は完全に一致している必要があります。
これは実地検査で最も重要なポイントの一つです。

実際には、図面と現地に食い違いがあることがよくあります。
例えば、

  • ドアが開閉式ではなく引き戸になっている
  • 医療機器の配置が図面と異なる
  • 室内のレイアウトが変更されている

簡単な修正であれば、その場で図面を修正することも可能ですが、大きな差異がある場合は図面の差し替えが必要になります。
最悪の場合、工事のやり直しが必要になることもあり、クリニックの開業が大幅に遅れる可能性があります。

そのため、工事着工前に保健所に図面の事前確認をしてもらうことが非常に重要です。
また、工事中も図面通りに施工されているか確認することをお勧めします。

部屋の用途表示

各部屋の入口には、「診察室」「内科診察室」「検査室」等のプレートを掲示してください。
この表示は、図面に記載された名称と完全に一致している必要があります。

例えば、図面に「診察室1」「診察室2」と記載されていれば、プレートもそのように表示する必要があります。
記載方法が一致していない場合は、プレートを修正するか図面を修正して一致させる必要があります。

エックス線装置及びエックス線診察室の検査

エックス線装置を設置する場合、レントゲン検査も同時に行われる保健所が多くあります。
以下の点に注意してください。

  • レントゲン関連の書類(エックス線装置設置届など)を事前に提出
  • 必要な表示(放射線管理区域の表示など)を設置
  • 放射線防護設備(鉛の厚さなど)が適切に施工されているか確認
  • 漏えい線量測定を実施(実地検査時に結果報告書が必要な場合も)

レントゲン業者と連絡を取り、必要な準備を依頼し、実地検査当日は同席をお願いするとスムーズに検査が進みます。

医療安全・感染対策関連

医療法では、診療所においても医療の安全管理体制の整備が義務付けられています。
以下の書類を準備しておきましょう。

  • 医療安全管理指針
  • 院内感染対策指針
  • 医薬品安全管理指針
  • 医療機器安全管理指針

これらは医師会のホームページなどにひな型が掲載されていることが多いので、自院用に修正して準備してください。

その他確認されるポイント

実地検査では、その他にも以下の点が確認されます。

感染性廃棄物の処理

感染性医療廃棄物処理については、廃棄物処理および清掃に関する法律で定められています。実地検査時には、感染性廃棄物処理契約書を準備しておきましょう。未締結の場合は、契約予定の業者名を伝えるなどの対応が必要です。

また、感染性廃棄物のバケツは、患者さんがアクセスできない場所に設置する必要があります。バックヤードなどスタッフだけが入れる場所に置くようにしましょう。

消火設備

無床のクリニックの場合でも、最低限消火器が必要です。設置場所を確認し、使用方法も把握しておきましょう。

医薬品の保管場所

医薬品は患者さんの手の届かない場所に保管する必要があります。
毒薬や麻薬を取り扱う場合は、毒薬用の鍵のかかる保管場所や麻薬専用の金庫が必要です。

また、薬品用冷蔵庫に職員の飲食物を入れることは禁止されています。

手指洗浄

すべての水回りに手指用洗浄剤または消毒剤(アルコールや石鹸など)を設置する必要があります。
ペーパータオルも準備してください。

カルテの保存方法

電子カルテの場合は、PCにパスワードがかかっているか確認されます。
紙カルテの場合は、カルテ庫に鍵がかかるかなどが確認されます。

実地検査への効果的な対応

実地検査を円滑に進めるための対応のポイントを解説します。

事前準備の徹底

実地検査の対応で最も重要なのは事前準備です。
以下の点を確認しておきましょう。

  • 保健所の実地検査チェックリストがあれば入手し、それに基づいて準備
  • 図面と現地の構造設備の一致を確認
  • 必要な掲示物や表示を準備
  • 原本書類を整理
  • 医療安全関連の書類を用意
  • スタッフに実地検査の内容と対応方法を説明

当日の対応

実地検査当日は、以下の点に注意して対応しましょう。

  • 管理者が必ず立ち会う
  • 質問には簡潔明瞭に回答する
  • 指摘事項はメモを取り、その場で修正できることは対応する
  • 原本書類はすぐに提示できるよう整理しておく
  • 内装業者や医療機器業者の連絡先を手元に用意(急な対応が必要な場合に備えて)

指摘事項への対応

実地検査で指摘を受けた場合は、迅速かつ適切に対応することが重要です。

  • 軽微な指摘であれば、その場で修正する
  • 書類の不備であれば、速やかに補正して提出する
  • 構造設備の問題であれば、すぐに業者に連絡して修正を依頼する
  • 対応が完了したら保健所に報告する

まとめ

診療所移転の保健所実地検査は、移転先での診療を開始するために必要不可欠なステップです。
実地検査の時期は保健所によって大きく異なり、①移転前、②移転直後、③すべての手続き完了後の3パターンがあります。
保健所に確認し、いつ実地検査が行われるかを把握しておくことが重要です。

実地検査では、管理者の立ち会い、原本提示、院内掲示、図面との一致、部屋の用途表示、エックス線装置の検査、医療安全・感染対策関連書類、その他の設備や備品など、多くの点がチェックされます。
特に図面と現地の一致は最重要ポイントであり、工事着工前の図面確認が非常に重要です。

事前準備を徹底し、当日は適切に対応することで、スムーズに実地検査を通過し、予定通りの移転を実現しましょう。
保健所によって対応が異なる場合もありますので、不明点は早めに確認することをお勧めします。

実地検査の厳しさは保健所によってかなり差があります。
中には全体を簡単に確認するだけで終わる保健所もあれば、細部までチェックし、1時間近くかかる保健所もあります。
いずれにしても、指摘があれば迅速に対応することで大きな問題にはなりませんので、万全の準備で臨みましょう。

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中村 弥生(なかむら やよい)

渋谷区の医療法人の事務長として、総務・経理・各種手続き業務を統括。
退職後、税理士事務所勤務を経て、2006年に行政書士事務所を開業。以来、医療法人専門の行政書士事務所として業務を行っている。
行政書士向けに「医療法人の行政手続き実務講座」を開講。
2025年1月、書籍「はじめてでもミスしない いちばんわかりやすい医療法人の行政手続き」を出版。

【実績】 医療法人の設立100件以上、定款変更300件以上。保健所、厚生局手続き300件以上。役員変更や決算届出等2,000件以上。

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