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患者情報を守りながら引き継ぐ:事業譲渡における医療データ管理の重要性

カルテのイメージ

クリニック経営者必見!廃業より医療法人等への事業譲渡を選ぶべき8つの理由

理由7. 患者情報の適切な管理継承

現代医療において、患者データの適切な管理は医師の重要な責務です。
廃業により患者情報が適切に処理されない場合、プライバシー保護や医療の継続性に大きな問題が生じる可能性があります。
事業譲渡による、患者データの適切な継承について、法的要件と実務上のポイントを詳しく解説します。

患者データ管理の法的背景

個人情報保護法の要請

医療機関が保有する患者情報は、個人情報保護法上の「要配慮個人情報」に該当し、特に厳格な管理が求められます。

主な義務には以下があります。

  • 適正な取得・利用
  • 安全管理措置の実施
  • 第三者提供の制限
  • 本人の開示・訂正・削除権への対応

医師法・医療法上の義務

医師には患者情報の守秘義務があり、診療録の適正な管理・保存義務も課せられています。

  • 診療録の5年間保存義務
  • 患者プライバシーの保護
  • 医療情報の適切な管理体制構築

廃業時の患者データ処理問題

データ廃棄のリスク

廃業により患者データを単純に廃棄する場合、以下の問題が生じます。

  • 患者の治療歴の完全な損失
  • 慢性疾患患者の継続治療への悪影響
  • 医療事故発生時の検証資料の欠失
  • 薬剤アレルギー等重要情報の消失

不適切な処理による法的リスク

患者データの不適切な廃棄や管理は、以下の法的問題を引き起こす可能性があります。

  • 個人情報保護法違反
  • 医師法上の守秘義務違反
  • 患者からの損害賠償請求
  • 行政処分のリスク

事業譲渡による適切な継承

法的根拠の確保

事業譲渡における患者データの移転は、以下の法的根拠に基づいて実施できます。

  • 患者の同意取得
  • 診療継続のための必要性
  • 医療の質向上のための利用

適切な手続きにより、法的問題を回避しながら患者データを承継できます。

患者同意の取得プロセス

事前の同意取得

  • 事業譲渡の告知
  • データ移転の説明
  • 同意書の取得
  • オプトアウト機会の提供

このプロセスにより、患者の自己決定権を尊重しながらデータ継承を進められます。

電子カルテシステムの継承

システム継続のメリット

電子カルテシステムを継続使用することで・・・

  • 診療の継続性確保
  • 検索・分析機能の維持
  • バックアップデータの保護
  • 運用ノウハウの継承

データ移行の技術的配慮

異なるシステムへの移行が必要な場合

  • データ形式の標準化
  • 移行データの整合性確認
  • バックアップの作成・保管
  • 移行後の動作確認

専門業者と連携することで、安全確実なデータ移行が可能です。

診療継続性の確保

治療歴の完全な引き継ぎ

患者の治療歴を完全に引き継ぐことで、

  • 過去の診断・治療内容の把握
  • 薬剤使用歴・アレルギー情報の確認
  • 検査結果の経時的変化の追跡
  • 家族歴・既往歴の詳細な把握

これにより、新しい医師も適切な診療を継続できます。

慢性疾患管理の継続

糖尿病、高血圧、慢性腎臓病などの慢性疾患患者にとって、継続的なデータ管理は治療効果に直結します。

  • 血糖値の長期変動パターン
  • 血圧管理の経過
  • 腎機能の推移
  • 合併症の発症・進行状況

セキュリティ対策の継承

物理的セキュリティ

  • サーバー室の施錠管理
  • 端末の盗難・紛失対策
  • 紙カルテの保管・施錠
  • 廃棄時の適切な処理

技術的セキュリティ

  • アクセス権限の管理
  • ログイン認証の強化
  • 通信の暗号化
  • ウイルス対策・ファイアウォール

これらのセキュリティ対策を適切に継承することで、患者データの安全性を維持できます。

医療画像データの管理

PACS(医療画像保存システム)の継承

医療画像は診断の重要な根拠となるため、適切な継承が必要です。

  • 画像データの完全性確保
  • DICOM規格での標準化
  • 画像品質の維持
  • 読影レポートとの関連付け

長期保存の要件

医療画像には長期保存が必要なものもあります。

  • 法定保存期間の遵守
  • 劣化しない保存形式の選択
  • バックアップ体制の構築
  • 将来的なシステム更新への対応

検査データの活用

臨床検査値の経年変化

血液検査、尿検査などの臨床検査値は、経年変化を追跡することで重要な診断情報となります。

  • 基準値からの逸脱パターン
  • 薬剤効果の判定
  • 疾患の進行度評価
  • 健康状態の総合的把握

スクリーニング検査の継続

定期健診や各種スクリーニング検査の結果も重要な資産です。

  • がん検診の結果推移
  • 生活習慣病リスクの変化
  • 予防接種履歴
  • アレルギー検査結果

医療安全への貢献

インシデント情報の継承

過去のインシデント・アクシデント情報は、医療安全向上のための貴重な資料です。

  • 薬剤アレルギー反応の詳細
  • 医療事故・ヒヤリハットの記録
  • 安全対策の効果検証
  • 再発防止策の継続

リスク情報の共有

患者固有のリスク情報を適切に継承することで・・・

  • 同様事故の防止
  • 個別対応の継続
  • 安全な医療提供の確保

研究・教育への活用

匿名化データの活用

適切に匿名化された患者データは、医学研究や教育に活用できます。

  • 疾患パターンの分析
  • 治療効果の検証
  • 医学教育への利用
  • 公衆衛生向上への貢献

ただし、研究利用には別途適切な手続きと承認が必要です。

データ管理体制の構築

責任体制の明確化

  • 個人情報保護管理者の設置
  • 職員への教育・研修
  • 管理規程の整備
  • 定期的な監査実施

継続的改善

  • システムの定期的見直し
  • 新技術への対応
  • 法令改正への迅速な対応
  • ベストプラクティスの導入

まとめ

クリニックの事業譲渡における患者データの適切な管理継承は、患者の権利保護、医療の継続性確保、医療安全の向上など、多面的な価値をもたらします。

廃業により貴重な医療データが失われることを防ぎ、患者さんの継続的な医療に貢献することは、医師としての重要な責務です。
適切な法的手続きと技術的配慮により、患者データを安全確実に次世代に引き継ぐことで、医療の質向上と患者満足度の向上を実現できます。

事業譲渡を検討される際は、患者データ管理の重要性を十分に認識し、専門家と連携しながら適切な継承プロセスを構築されることをお勧めします。

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中村 弥生(なかむら やよい)

渋谷区の医療法人の事務長として、総務・経理・各種手続き業務を統括。
退職後、税理士事務所勤務を経て、2006年に行政書士事務所を開業。以来、医療法人専門の行政書士事務所として業務を行っている。
行政書士向けに「医療法人の行政手続き実務講座」を開講。
2025年1月、書籍「はじめてでもミスしない いちばんわかりやすい医療法人の行政手続き」を出版。

【実績】 医療法人の設立100件以上、定款変更300件以上。保健所、厚生局手続き300件以上。役員変更や決算届出等2,000件以上。

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