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医療法人の事業承継対策 理由5:遺言内容の定期的な見直し体制構築

遺言書の確認イメージ

医療法人を取り巻く環境は常に変化しており、医療法制度の改正、税制の変更、診療報酬改定、社会情勢の変化など、多くの要因が事業承継に影響を与えます。
一度作成した遺言をそのまま放置していては、時代の変化に対応できず、承継時に重大な問題が発生する可能性があります。

早期から遺言内容の定期的な見直し体制を構築することで、常に最新の法制度や状況変化に対応した最適な遺言内容を維持し、確実な事業承継を実現できます。

見直し実施による具体的効果

医療法制度の継続的改正

医療法は社会情勢の変化に応じて継続的に改正されており、医療法人制度も大きく変化しています。平成19年の第5次医療法改正では出資持分の定めのない医療法人への移行が促進され、令和元年の改正では医師以外の理事長就任要件が緩和されるなど、重要な変更が継続的に実施されています。

これらの制度変更は、事業承継の方法や選択肢に直接影響するため、遺言内容も制度変更に応じて見直す必要があります。古い制度を前提とした遺言では、承継時に実行困難となるリスクがあります。

税制改正による影響

相続税法、贈与税法、法人税法などの税制改正は、医療法人の事業承継に大きな影響を与えます。事業承継税制の創設、相続税の基礎控除額変更、贈与税の非課税枠拡大など、承継に有利な制度変更もあれば、税負担が増加する変更もあります。

これらの税制変更に迅速に対応し、最も有利な承継方法を選択するためには、遺言内容の定期的な見直しが不可欠です。新しい制度を活用した節税対策を遺言に反映させることで、承継時の税務負担を大幅に軽減できます。

診療報酬制度の変化

診療報酬は2年に1度改定され、医療法人の収益構造に大きな影響を与えます。診療報酬の改定により、医療法人の収益性や将来性が変化し、出資持分の評価額にも影響が生じます。

また、新しい施設基準の創設、既存基準の変更、加算要件の見直しなども、医療法人の事業戦略に影響を与えるため、これらの変化を踏まえた承継計画の見直しが必要です。

定期見直しの具体的実施方法

年次見直しスケジュールの確立

遺言内容の見直しを定期的に実施するため、年次スケジュールを確立します。毎年の決算確定後、税制改正の内容が明確になった時点、診療報酬改定の詳細が判明した時点など、見直しに適切なタイミングを設定します。

見直しスケジュールには、現状分析、課題抽出、対策検討、遺言修正の検討、専門家との協議など、一連のプロセスを組み込み、体系的な見直しを実施します。

専門家チームによる定期協議

税理士、弁護士、行政書士、公認会計士など、各分野の専門家によるチームを編成し、定期的に遺言内容の妥当性を検証します。それぞれの専門分野から見た問題点や改善提案を収集し、総合的な見直しを実施します。

専門家チームには、医療法人制度に精通した専門家を含めることで、医療法人特有の課題についても適切な検討を行います。

変化要因の継続的監視

医療法制度、税制、診療報酬制度などの変化について、継続的に情報収集を行い、遺言内容への影響を評価します。厚生労働省、国税庁、関係団体などからの情報を定期的にチェックし、重要な変更については速やかに対応を検討します。

情報収集は、専門誌の購読、セミナーへの参加、専門家との情報交換など、多角的な手段により実施します。

見直しが必要となる具体的ケース

後継者候補の変更

当初予定していた後継者が医師免許を取得できなかった場合、他の分野への進路変更を希望した場合、健康上の理由で承継が困難になった場合など、後継者候補の変更が必要となることがあります。

このような場合は、遺言内容を根本的に見直し、新たな後継者候補を前提とした承継計画に変更する必要があります。後継者の変更は承継方法、承継時期、承継条件のすべてに影響するため、包括的な見直しが必要です。

医療法人の事業拡大・縮小

新たな診療科の開設、病床数の増加、介護事業の開始など、医療法人の事業拡大により法人の価値や複雑性が変化した場合、遺言内容の見直しが必要です。また、事業の縮小や診療科の廃止なども、同様に遺言への影響を検討する必要があります。

事業内容の変化は、出資持分の評価額、承継に必要な専門性、承継後の経営方針などに影響するため、これらの変化に対応した遺言の修正を実施します。

家族構成の変化

理事長の家族構成の変化(配偶者の死亡、子の誕生、離婚など)は、遺言内容に直接影響します。相続人の変更、遺留分の考慮、承継候補者の変更など、家族構成の変化に応じた遺言の見直しが必要です。

特に、医療法人の承継では後継者の医師資格が重要な要件となるため、家族の中での医師の有無、医学部進学の状況なども継続的に考慮する必要があります。

見直し体制構築の実務

情報管理システムの整備

遺言に関する情報、関連資料、見直し履歴などを一元的に管理するシステムを整備します。デジタル化による情報の整理、検索機能の充実、バックアップ体制の構築など、効率的で安全な情報管理を実現します。

また、機密性の高い情報を扱うため、アクセス権限の設定、暗号化による保護、物理的セキュリティの確保など、情報セキュリティにも十分な配慮を行います。

見直し結果の記録と承認

見直しの実施内容、検討結果、修正の有無などを詳細に記録し、理事長の承認を得ます。見直しプロセスの透明性を確保し、将来の参考資料として活用できる体制を整備します。

見直し結果については、必要に応じて後継者や家族にも共有し、承継計画の変更について理解と同意を得ます。

緊急時見直し体制

理事長の健康状態の急変、法制度の緊急改正、経営環境の急激な変化など、緊急に遺言見直しが必要となる場合に備えて、迅速な対応体制を整備します。

緊急時には、専門家との速やかな連絡、必要資料の即座の準備、遺言修正の迅速な実行など、時間的制約の中での適切な対応が求められます。

見直し実施による具体的効果

法制度変更への迅速対応

新しい制度や優遇措置を活用した承継方法への変更により、税務負担の軽減、手続きの簡素化、承継リスクの軽減などの効果を得られます。制度変更のメリットを最大限活用した最適な承継を実現できます。

承継条件の最適化

医療法人の成長、後継者の成長、市場環境の変化などに応じて、承継条件を最適化できます。当初の計画よりも有利な条件での承継、リスクの少ない承継方法への変更など、状況に応じた柔軟な調整が可能です。

承継確実性の向上

定期的な見直しにより、遺言内容の実行可能性を継続的に確認し、承継時の確実な実行を担保できます。変化した状況に対応できない古い遺言による承継失敗を防止し、確実な事業継続を実現できます。

まとめ

医療法人を取り巻く環境は絶えず変化しており、一度作成した遺言をそのまま維持することは適切ではありません。定期的な見直し体制を構築し、継続的に最適な遺言内容を維持することで、確実で効率的な事業承継を実現できます。

早期から見直し体制を整備することで、変化への迅速な対応、最適な承継条件の維持、承継確実性の向上など、多くの効果を得ることができます。医療法人の未来のため、今すぐにでも遺言見直し体制の構築を開始することをお勧めします。

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中村 弥生(なかむら やよい)

渋谷区の医療法人の事務長として、総務・経理・各種手続き業務を統括。
退職後、税理士事務所勤務を経て、2006年に行政書士事務所を開業。以来、医療法人専門の行政書士事務所として業務を行っている。
行政書士向けに「医療法人の行政手続き実務講座」を開講。
2025年1月、書籍「はじめてでもミスしない いちばんわかりやすい医療法人の行政手続き」を出版。

【実績】 医療法人の設立100件以上、定款変更300件以上。保健所、厚生局手続き300件以上。役員変更や決算届出等2,000件以上。

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