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医療法人の事業承継対策 理由2:出資持分評価の事前確定と遺言への反映

遺言書の記述

医療法人の事業承継において、出資持分の評価は最も複雑で重要な要素の一つです。出資持分の評価額は相続税・贈与税の課税標準となるため、適正な評価の確定は税務負担に直結します。
しかし、医療法人の出資持分評価は特殊性が高く、評価方法や評価時点によって大きく金額が変動するリスクがあります。

早期から定期的な評価を実施し、遺言作成時点での適正な評価額を確定させることで、相続時のトラブルを防止し、最適な承継を実現できます。

医療法人出資持分評価の特殊性

医療法人固有の評価上の制約

医療法人は非営利性が求められる特殊な法人であり、一般企業とは異なる評価上の制約があります。
医療法第54条により、剰余金の配当が禁止されているため、配当還元方式による評価は適用できません。

また、医療法人の事業は医療提供に限定され、営利事業への展開に制限があるため、将来の収益性評価においても特別な配慮が必要です。
これらの制約を適切に反映した評価方法の選択と適用が、適正な評価額算定の前提となります。

評価方法の選択による金額差

医療法人の出資持分評価では、純資産価額方式、類似業種比準方式、DCF法など複数の評価方法が考えられますが、選択する方法により評価額が大きく異なります。

純資産価額方式では、医療機器などの資産評価が時価ベースとなり、簿価との差額が大きい場合は高額な評価となる可能性があります。
一方、類似業種比準方式では、比較対象となる類似業種の選定が困難で、適用自体に疑問が生じる場合もあります。

評価時点による変動リスク

医療法人の業績は、診療報酬改定、患者数の変動、設備投資の実施時期などにより大きく変動します。
評価時点が異なることで、同じ評価方法でも大幅に異なる結果となるリスクがあります。

特に、大型医療機器の購入直後は純資産が増加し、減価償却の進行とともに徐々に減少するなど、評価時点の選択が評価額に大きな影響を与えます。

事前評価実施の重要性

評価方法の妥当性検証

複数の評価方法を並行して実施し、それぞれの結果を比較検討することで、最も適正と考えられる評価方法を選定できます。
税務当局との見解相違を最小化し、将来の税務調査リスクを軽減する効果があります。

評価の妥当性については、税理士、公認会計士などの専門家による検証を受け、客観的な評価額の確定を図ります。
複数の専門家による評価結果の一致度が高い場合、その評価額の信頼性は高くなります。

評価額圧縮対策の実施

事前評価により高額な評価額が判明した場合、評価圧縮のための対策を実施できます。
退職金の支給、設備投資の実施、借入金の調達など、合法的な方法で純資産を調整し、評価額の適正化を図ります。

これらの対策は実施から効果発現まで時間を要するため、早期の評価実施と対策実行が重要です。
承継直前では十分な対策期間を確保できません。

評価根拠資料の整備

適正な評価のためには、財務諸表、固定資産台帳、患者数推移、診療報酬実績など、多くの根拠資料が必要です。
これらの資料を継続的に整備し、評価に必要な情報を常に最新の状態で維持することが重要です。

特に、医療機器の実勢価格、不動産の時価評価、無形資産の価値算定など、専門的な調査を要する項目については、事前の準備が不可欠です。

不動産評価の特殊性と重要性

医療法人が所有する不動産(土地・建物)は、出資持分評価において大きなウェイトを占める重要な要素です。
医療法人の不動産は、一般的な事業用不動産とは異なる特殊性があり、評価においても特別な配慮が必要です。

医療用建物は、診察室、処置室、手術室、病室など、医療に特化した構造となっており、他用途への転用が困難な場合があります。
このため、一般的な事業用不動産とは異なる評価方法や減価要因の考慮が必要となります。

また、立地についても、住宅地や商業地域での医療機関立地、交通アクセスの利便性、駐車場の確保状況など、医療法人特有の立地要因が評価額に大きく影響します。
これらの要因を適切に反映した専門的な不動産評価が必要です。

不動産評価額の変動要因

医療法人所有不動産の評価額は、以下の要因により大きく変動する可能性があります。

地価変動の影響

路線価や固定資産税評価額の変動により、土地評価額が大幅に変動する場合があります。
特に、都市部の医療法人では地価上昇により評価額が高騰するリスクがあります。

建物の経年劣化

医療用建物の減価償却の進行により、建物評価額は経年的に減少します。
ただし、適切な維持管理や設備更新により、実勢価値の維持も可能です。

用途地域の変更

都市計画の変更により用途地域が変更された場合、不動産の利用可能性と評価額に大きな影響を与える可能性があります。

インフラ整備の影響

道路整備、公共交通機関の新設、周辺開発などのインフラ整備により、不動産の利便性と評価額が変動します。

遺言への評価額反映の実務

評価額の遺言記載方法

遺言では、出資持分の評価額を具体的に記載するか、評価方法を指定するかの選択が必要です。
評価額を具体的に記載する場合は、評価基準日を明確にし、評価方法と評価根拠を付属資料として整備します。

評価方法を指定する場合は、評価機関、評価基準、評価時点などを詳細に規定し、相続時の評価手続きを明確化します。
いずれの方法でも、評価の透明性と客観性を確保することが重要です。

相続税納税資金の確保指示

出資持分の相続により高額な相続税が発生する場合、納税資金の確保方法を遺言に明記する必要があります。
医療法人からの退職金支給、個人資産からの充当、金融機関からの借入など、具体的な資金確保方法を指示します。

特に、出資持分は換金性が低いため、相続税の納付期限までに現金化することが困難です。
延納・物納の活用、相続税の分割払い制度の利用なども含めて、総合的な納税計画を策定し、遺言に反映させます。

持分移転の段階的実行指示

出資持分の一括移転ではなく、段階的な移転を指示することで、税務負担の分散と承継リスクの軽減を図れます。
生前贈与の活用、相続時精算課税制度の適用、事業承継税制の活用など、複数の制度を組み合わせた最適な移転計画を遺言に明記します。

早期準備による具体的効果

評価額変動への対応力向上

定期的な評価実施により、評価額の変動傾向を把握し、最適な承継時期を選択できます。
評価額が相対的に低い時期を狙った承継実行により、税務負担を大幅に軽減できる可能性があります。

複数シナリオでの承継計画策定

異なる評価額を前提とした複数の承継シナリオを策定し、状況に応じて最適なプランを選択できます。
高評価額時の対策、低評価額時の活用方法など、柔軟な対応が可能となります。

関係者への事前説明による理解促進

評価結果と承継計画について、後継者、家族、その他の関係者に事前に説明し、理解を得ることができます。
突然の高額相続税発生による混乱を防止し、円滑な承継手続きを実現できます。

実務上の留意点

不動産評価機関の選定

不動産評価については、医療法人の不動産評価経験が豊富な不動産鑑定士を選定することが重要です。
医療用建物の特殊性、医療法人の事業特性、地域医療における立地要因などを適切に理解し、専門的な評価を実施できる鑑定士の選定により、適正で信頼性の高い評価を実現します。

不動産評価資料の継続的更新

不動産評価に必要な資料は継続的に更新し、常に最新の状況を反映した評価が可能な体制を整備します。
建物の維持管理状況、改修履歴、周辺地域の開発状況、地価動向、賃貸市場の動向など、評価に影響する要因を継続的に把握します。

不動産に関する税務当局との事前協議

不動産評価の妥当性について、税務当局との事前協議を実施することも有効です。
評価方法の適正性、減価要因の妥当性、特殊事情の考慮などについて、事前に当局の見解を確認し、将来の税務調査リスクを軽減します。

まとめ

医療法人の出資持分評価は、一般企業以上に複雑で専門性の高い作業です。
早期から定期的な評価を実施し、適正な評価額を確定させることで、最適な承継計画を策定できます。

遺言への適切な評価額反映により、相続時のトラブル防止、税務負担の最小化、承継手続きの円滑化など、多くのメリットを得ることができます。
医療法人の永続的な発展のため、今すぐにでも出資持分評価の検討を開始することをお勧めします。

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事務所代表・記事監修
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中村 弥生(なかむら やよい)

渋谷区の医療法人の事務長として、総務・経理・各種手続き業務を統括。
退職後、税理士事務所勤務を経て、2006年に行政書士事務所を開業。以来、医療法人専門の行政書士事務所として業務を行っている。
行政書士向けに「医療法人の行政手続き実務講座」を開講。
2025年1月、書籍「はじめてでもミスしない いちばんわかりやすい医療法人の行政手続き」を出版。

【実績】 医療法人の設立100件以上、定款変更300件以上。保健所、厚生局手続き300件以上。役員変更や決算届出等2,000件以上。

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