医療法人の出口戦略 理由20:患者・家族への段階的な後継者紹介
医療法人の最も重要な資産は、長年にわたって築いてきた患者との信頼関係です。患者は単に医療技術だけでなく、医師の人格、コミュニケーション能力、診療姿勢、医療に対する考え方なども総合的に評価し、信頼できる医師を選択しています。
事業承継により理事長・管理者が交代することは、患者にとって大きな不安要因となります。「新しい医師は信頼できるのか」「医療の質は維持されるのか」「これまでの治療方針は継続されるのか」といった不安を抱く患者も少なくありません。
早期から段階的に後継者を患者・家族に紹介し、信頼関係を構築することで、承継による患者離れを防止し、医療継続性への不安を解消できます。
患者の医師選択における信頼要素
医療技術への信頼
患者が医師を選択する最も重要な要素は医療技術への信頼です。正確な診断能力、適切な治療選択、手技の確実性、最新医療への対応力などについて、患者は継続的に評価しています。
後継者が患者から医療技術面での信頼を得るためには、実際の診療を通じた実績の蓄積が必要です。診療への段階的参加により、患者が後継者の技術力を直接確認し、安心して診療を任せられる関係を構築します。
人格・人間性への信頼
医療技術と同様に重要なのが、医師の人格・人間性への信頼です。患者への共感力、丁寧な説明能力、誠実な対応、倫理観の高さなどについて、患者は敏感に感じ取っています。
後継者の人格・人間性については、継続的な患者との接触により理解を深めてもらう必要があります。診察時の対応、患者・家族との面談、緊急時の対応などを通じて、後継者の人間的魅力を患者に理解してもらいます。
コミュニケーション能力への評価
患者は医師とのコミュニケーションを重視しており、説明の分かりやすさ、質問への丁寧な対応、患者の気持ちへの配慮などを評価しています。後継者のコミュニケーション能力について、患者が直接評価できる機会を段階的に提供することが重要です。
段階的紹介の具体的方法
第1段階:後継者の存在紹介
最初の段階では、後継者の存在を患者に紹介します。院内掲示、パンフレット、ホームページなどを通じて、後継者の経歴、専門性、将来への抱負などを紹介し、患者の関心を喚起します。
この段階では直接的な診療参加ではなく、医療法人の将来を担う重要なメンバーとしての紹介に留め、患者の心理的準備を促進します。
第2段階:診療への部分的参加
後継者が実際の診療に部分的に参加し、患者との直接的な接触を開始します。現理事長の診療への同席、患者説明への参加、検査結果の説明などを通じて、患者が後継者の医療能力と人格を直接評価できる機会を提供します。
患者への説明では、後継者の役割、専門性、今後の関与予定などを明確に説明し、患者の理解と受容を促進します。
第3段階:独立した診療の開始
後継者が独立して診療を行う機会を段階的に拡大します。特定の曜日や時間帯での診療担当、特定の患者群の主治医就任、専門外来の開設などにより、後継者が主体的に診療を行う経験を積みます。
この段階では、患者が後継者を主治医として受け入れ、継続的な診療関係を構築できるかを確認します。患者の反応と評価を継続的にモニタリングし、必要に応じて対応を調整します。
第4段階:責任範囲の拡大
後継者の診療責任範囲を段階的に拡大し、将来の理事長・管理者としての診療体制を構築します。救急対応、困難症例の担当、他科との連携など、より高度で責任の重い診療業務を担当し、患者からの全面的な信頼獲得を図ります。
患者・家族への配慮事項
個別患者への丁寧な説明
患者一人ひとりの状況に応じて、後継者紹介の方法と時期を調整します。病状の安定している患者と治療中の重篤な患者では、紹介のタイミングと方法を変える必要があります。
特に、長期間にわたって現理事長が診療してきた慢性疾患患者については、時間をかけた丁寧な紹介と信頼関係構築が重要です。
家族への情報提供
患者本人だけでなく、家族に対しても後継者に関する適切な情報提供を実施します。家族は患者の医療に重要な影響を与える場合が多く、家族の理解と協力を得ることで、患者の安心感も向上します。
家族との面談機会を設け、後継者の人格と能力を直接評価してもらい、家族からの信頼獲得を図ります。
高齢患者への特別配慮
高齢患者は変化への適応が困難な場合があり、後継者への紹介についても特別な配慮が必要です。ゆっくりとした説明、繰り返しの確認、家族同席での説明などにより、高齢患者の理解と受容を促進します。
信頼関係構築の促進策
診療方針の継続性説明
後継者が現理事長の診療方針を基本的に継承し、患者にとって不利益な変更がないことを明確に説明します。治療計画の継続、薬剤処方の維持、定期検査の継続などについて、患者の安心を確保します。
後継者の専門性アピール
後継者の医学的専門性、研修歴、資格、学会活動などについて適切にアピールし、患者の医療技術への信頼獲得を図ります。ただし、過度なアピールは逆効果となる可能性があるため、適切な程度での紹介が重要です。
患者との継続的対話
後継者と患者の継続的な対話機会を設け、相互理解の促進を図ります。診療時間の確保、十分な説明時間の提供、患者の質問への丁寧な対応などにより、信頼関係の深化を実現します。
紹介効果の測定と改善
患者満足度調査
後継者紹介に関する患者満足度を定期的に調査し、紹介方法の効果を測定します。患者の理解度、受容度、満足度、継続受診意向などを定量的に把握し、紹介方法の改善を図ります。
患者動向の分析
患者数の変動、新患者の獲得状況、既存患者の継続状況などを詳細に分析し、後継者紹介の効果を評価します。患者離れの兆候が見られる場合は、原因分析と改善策の実施により、患者基盤の維持を図ります。
フィードバックの収集と活用
患者・家族からのフィードバックを積極的に収集し、後継者紹介の改善に活用します。患者の意見、要望、懸念などを真摯に受け止め、可能な範囲で改善を実施します。
段階的紹介による効果
患者不安の最小化
段階的な紹介により、患者の急激な変化への不安を最小化できます。徐々に後継者に慣れ親しむことで、承継時の心理的負担を軽減し、継続受診への意欲を維持できます。
信頼関係の確実な構築
十分な時間をかけた段階的紹介により、患者と後継者の間に確実な信頼関係を構築できます。表面的な関係ではなく、深い信頼に基づく医師・患者関係を確立し、承継後の安定した診療継続を実現します。
患者基盤の維持・拡大
既存患者の継続受診確保に加えて、後継者の魅力により新規患者の獲得も期待できます。後継者の専門性や人格的魅力により、患者基盤の維持だけでなく拡大も実現できる可能性があります。
実施上の注意点
医療継続性の確保
後継者紹介の過程で、医療の継続性が損なわれることがないよう十分な配慮が必要です。患者の治療に支障を来すことなく、段階的な紹介を実施することが重要です。
プライバシーの保護
患者・家族の個人情報とプライバシーを適切に保護しながら、後継者紹介を実施します。患者の同意なく個人情報を後継者に提供することがないよう、適切な手続きを踏みます。
患者選択権の尊重
患者には医師を選択する権利があり、後継者を受け入れない患者の意思も尊重する必要があります。強制的な後継者への移行ではなく、患者の自由意思に基づく選択を支援します。
まとめ
患者・家族への段階的な後継者紹介は、医療法人の事業承継における最も重要な成功要因の一つです。患者との信頼関係構築、医療継続性の確保、患者基盤の維持により、承継後の安定した事業運営を実現できます。
早期から計画的な段階的紹介を実施することで、患者が安心して後継者による医療を受け入れ、継続的な受診を継続する関係を構築できます。患者第一の医療法人承継のため、今すぐにでも段階的紹介の計画策定を開始することをお勧めします。






