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医療法人の事業承継対策 理由1:医療法人特有の遺言事項の整理期間確保

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医療法人の事業承継において、理事長の遺言は極めて重要な役割を果たします。

しかし、一般的な個人の遺言とは大きく異なり、医療法人特有の複雑な事項を適切に整理し、法的に有効な形で記載する必要があります。

この整理作業には相当な時間と専門的な検討が必要であり、早期からの準備が不可欠です。

医療法人の遺言で考慮すべき特有事項

医療法人の出資持分に関する事項

医療法人の出資持分は、一般企業の株式とは性質が大きく異なります。
医療法の規定により、出資持分の譲渡には一定の制限があり、また評価方法も複雑です。
遺言では、出資持分の承継先、承継方法、評価基準について明確に規定する必要があります。

特に、出資持分の定めのある医療法人(経過措置型医療法人)の場合、持分の相続により高額な相続税が発生する可能性があります。
遺言作成時には、持分評価の圧縮対策、納税資金の確保方法、分割払いの検討など、税務面での詳細な検討が必要です。

理事長職の継承に関する意思表示

医療法人の理事長は、医療法の規定により医師である必要があります(一定の例外を除く)。
遺言では、後継者として想定している人物の氏名、承継時期、承継条件などを明確に記載し、理事長としての承継意思を明確に示す必要があります。

また、後継者が複数いる場合の優先順位、後継者候補が承継を辞退した場合の代替案、外部からの理事長招聘の可能性なども検討し、遺言に反映させる必要があります。

医療理念・経営方針の継承指示

医療法人が長年にわたって培ってきた医療理念、患者に対する診療方針、職員の処遇方針、地域医療への貢献姿勢などは、理事長の強い意思として承継されるべき重要な要素です。

遺言では、これらの理念・方針を具体的に記載し、後継者に対する指示として明確に示すことが重要です。
特に、営利追求に偏ることなく、医療の公共性を重視した経営を継続するよう指示することで、医療法人の社会的使命を次世代に確実に継承できます。

遺言事項整理に必要な期間とプロセス

現状把握と課題整理(6ヶ月程度)

まず、医療法人の現状を詳細に把握し、承継に関する課題を整理する必要があります。
出資持分の現在の評価額、理事・監事の構成、定款の内容、財務状況、事業の将来性など、多岐にわたる要素を検討します。

この段階では、税理士、弁護士、行政書士などの専門家との協議を重ね、承継に関する選択肢を検討し、最適な承継方法を模索します。

後継者との協議と条件調整(1年程度)

後継者候補との詳細な協議を通じて、承継条件を調整します。
承継時期、承継方法、金銭的条件、承継後の役割分担など、多くの事項について合意形成を図る必要があります。

この協議過程では、後継者の意思確認、能力評価、将来への意欲なども重要な要素となります。
複数回にわたる話し合いを通じて、双方が納得できる条件を見つけることが重要です。

遺言内容の法的検証と完成(6ヶ月程度)

協議により決定した承継方針を、法的に有効な遺言として完成させます。
医療法、民法、税法などの関連法令に照らして内容を検証し、法的な問題がないことを確認します。

また、遺言の記載内容が具体的で実行可能なものとなるよう、詳細な条件設定と手続き方法の明記を行います。

医療法人遺言の特殊性と注意点

医療継続性への配慮

医療法人の遺言では、医療サービスの継続性に特別な配慮が必要です。
承継手続き期間中も患者への医療提供を継続し、地域医療に支障を来さないよう、具体的な継続方法を遺言に記載することが重要です。

職員の雇用継続への配慮

医療法人には多くの職員が働いており、承継により雇用が不安定になることを避ける必要があります。
遺言では、職員の雇用継続、労働条件の維持、退職金の支払いなどについて、後継者への指示として明記することが重要です。

許認可承継の円滑化

医療法人が保有する各種許認可の承継についても、遺言で方針を示すことが効果的です。
保険医療機関指定、介護事業所指定などの承継手続きを円滑に進めるための準備と、後継者への指示を盛り込みます。

早期準備による具体的メリット

法的リスクの最小化

十分な時間をかけて遺言内容を検討することで、法的な不備や矛盾を排除し、相続時のトラブルを防止できます。
特に、医療法人の複雑な法的要件に対応した適切な遺言を作成することで、承継手続きを円滑に進められます。

税務負担の最適化

出資持分の評価圧縮、贈与の活用、事業承継税制の適用など、様々な税務対策を遺言に反映させることで、相続税負担を大幅に軽減できます。
これらの対策は、事前の綿密な計算と準備が必要です。

関係者の理解促進

遺言内容について事前に関係者に説明し、理解を得ることで、相続時の混乱を防止できます。
後継者、家族、職員、患者などの理解と協力を得ることで、スムーズな承継を実現できます。

まとめ

医療法人特有の遺言事項の整理には、一般的な遺言作成以上に長期間の準備が必要です。
出資持分、理事長職、医療理念の承継という特殊な要素に加えて、医療継続性、職員雇用、許認可承継など、多岐にわたる配慮事項があります。

早期から専門家と連携して遺言内容を検討し、関係者との協議を重ねることで、法的に有効で実効性の高い遺言を完成させることができます。
医療法人の永続的な発展のため、今すぐにでも遺言準備を開始することをお勧めします。

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中村 弥生(なかむら やよい)

渋谷区の医療法人の事務長として、総務・経理・各種手続き業務を統括。
退職後、税理士事務所勤務を経て、2006年に行政書士事務所を開業。以来、医療法人専門の行政書士事務所として業務を行っている。
行政書士向けに「医療法人の行政手続き実務講座」を開講。
2025年1月、書籍「はじめてでもミスしない いちばんわかりやすい医療法人の行政手続き」を出版。

【実績】 医療法人の設立100件以上、定款変更300件以上。保健所、厚生局手続き300件以上。役員変更や決算届出等2,000件以上。

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