分院開設にあたって用意するもの

医療法人が分院を開設する際には、多くの書類や準備が必要になります。
この記事では、分院開設に必要な書類と準備について、実務的な観点から解説していきます。
書類準備の基本的な考え方
分院開設に必要な書類は、大きく分けて「医療法人関連の書類」と「分院関連の書類」の2種類があります。
医療法人関連の書類は、分院の場所や管理者が確定する前から準備できるものが多いため、早めに準備を始めることをお勧めします。
一方、分院関連の書類は、物件や管理者が決まってから準備することになります。
医療法人の場合、定款変更認可申請から保険診療開始まで6~8ヶ月程度かかりますので、できるだけ早く準備に着手することが重要です。
例えば、4月に分院開設を決定した場合、保険診療開始は通常11月頃になります。
医療法人関連の書類
現行定款
定款変更認可申請を行うため、医療法人の現行定款が必要です。
定款が見つからない場合は、設立時の認可書や過去の定款変更認可書の中に綴られているはずです。
新定款を作成する作業になりますので、現行定款のワードファイルも用意しておくと便利です。
医療法人設立時や定款変更時に依頼した税理士や行政書士が、定款のワードファイルを保管しているはずです。
医療法人の謄本(履歴事項全部証明書)
最新の履歴事項全部証明書が必要です。
最寄りの法務局での取得の他、登記・供託オンライン申請システムでオンライン取得も可能です。
取得から3ヶ月以内のものを用意しましょう。
過去の認可関連書類
以下の書類を準備します。
- 医療法人設立時の認可書
- 設立後に定款変更をしている場合は、その定款変更認可書の控え一式
これらの書類は、今回の申請内容と過去の提出内容との整合性を確認するために必要です。
都道府県等の審査では、過去の提出書類との整合性も重要なポイントとなります。
届出関連書類
以下の書類の控えを準備します。
- 役員変更届の控え
- 事業報告(決算届)の控え
これらも、過去の届出内容と今回の申請内容の整合性を確認するために必要です。特に役員構成については、慎重な確認が必要です。
決算関連書類
以下の書類を準備します。
- 医療法人の直近の法人税確定申告書
- 直近の月次残高試算表
これらは主に予算書作成の際に必要となります。
都道府県によっては、直近の月次残高試算表の提出を求められる場合もありますので、準備しておきましょう。
分院関連の書類
建物関連書類
診療所の図面
診療所の図面には、以下の内容が明記されている必要があります。
- 各部屋の用途(待合室、診察室、処置室など)
- 各部屋の面積
- 医療機器等の配置
図面作成にあたっての注意点
- 工事着工前に、業者に保健所へ相談に行ってもらい、構造設備に問題がないか確認することが重要です
- 医療機関の実績が豊富な業者に依頼することをお勧めします
- 医療法施行規則に定められた基準を満たしているか、特に確認が必要です
建物賃貸借契約書
建物賃貸借契約書については、以下の点に特に注意が必要です。
- 建物所有者と賃貸人が異なる場合
– 建物所有者と賃貸人の関係を示す原契約が必要
– 建物所有者による転貸承諾書が必要
– これらの書類の入手には時間がかかる場合があるため、早めの確認と手配が重要 - 契約が未締結の場合
– 素案提出時はドラフト版でも可能な場合がある
– 本申請までには正式な契約書の写しが必要 - 新築物件の場合
– 予約契約書等でも素案提出は可能
– 本申請までには正式な賃貸借契約書が必要
登記関連書類
以下の書類が必要です。
- 土地の全部事項証明書
- 建物の全部事項証明書
登記関連書類の注意点
- 素案提出時は登記情報提供サービスの情報でも可
- 本申請時には正式な謄本が必要
- 取得から3ヶ月以内のものを用意
管理者(院長)関連書類
身分証明関連
- 印鑑証明書(原本)
– 都道府県により必要部数が異なる
– 通常1~2通必要 - 履歴書
– 写真添付
– 職歴は空白期間のないように記載
資格関連
- 医師免許証・歯科医師免許証
– 写しを提出
– 保健所手続き時には原本提示も必要 - 臨床研修修了登録証
– 医師は平成16年4月以降、歯科医師は平成18年4月以降の登録者が対象
– 厚生労働省発行の証明書が必要
– 大学病院の研修修了証では不可
– 取得に時間がかかる場合があるため、早めの手配を推奨 - 保険医登録票
– 写しを提出
– 厚生局への手続きで必要
その他必要な準備
分院開設資金の確認
分院開設には多額の資金が必要となります。主な必要資金は以下の通りです。
- 初期費用
– 内装工事費用
– 医療機器購入費用
– 保証金・敷金
– 開業準備金 - 運転資金
– 通常2ヶ月分程度が必要
– 人件費、家賃、医療材料費等を考慮
資金調達方法の検討
- 内部留保での対応
- 金融機関からの借入
- 理事長からの借入
医療法人の必要手続きの確認
以下の手続きが未了の場合は、早めに済ませておく必要があります。
- 毎年の決算届
- 2年に1回の役員変更届
- 毎年の資産総額変更登記
- 2年毎の理事長重任登記
これらの手続きが未了の場合、定款変更認可が下りない都道府県等が多いため、注意が必要です。
スケジュール管理
分院開設までの主なスケジュールは以下の通りです。
- 開設決定から素案提出まで
– 書類準備:2週間~1ヶ月
– 物件契約および内装設計:1~2ヶ月 - 素案提出から認可まで
– 審査期間:2~3ヶ月
– この間に内装工事を進める - 認可後の手続き
– 登記申請:2週間程度
– 保健所手続き:2~3週間
– 厚生局手続き:約1ヶ月
書類準備時の注意点
診療所の名称と所在地
診療所の名称と所在地の表記は、以下の点に特に注意が必要です。
- 診療所名称
– 保健所に事前相談が必要
– 類似名称との重複確認
– 法人名の使用有無の確認 - 所在地表記
– 住居表示と地番表示の確認
– 都道府県による表記方法の違いへの対応
– 新築の場合は住居表示決定時期の確認
書類の整合性確認
全ての書類で以下の点の整合性を確認します。
- 医療法人の名称表記
- 理事長名の表記
- 所在地の表記
- 診療科目の表記
押印・署名
書類への押印・署名については以下の点に注意が必要です。
- 理事長印と実印の使い分け
- 管理者予定者の実印の使用
- 訂正箇所への訂正印
- 契約書等の割印
まとめ
分院開設の手続きは複雑で、準備すべき書類も多岐にわたります。
しかし、この記事で説明した内容に沿って計画的に準備を進めることで、スムーズな開設が可能となります。
特に重要なのは、早めの準備着手と、書類の整合性確認です。
不明な点がある場合は、所轄の都道府県や保健所に確認することをお勧めします。