医療法人買収の収益基盤:保険医療機関指定の遡及と診療報酬継続性①

既存クリニック買収の10大メリット⑧-1
医療法人が事業譲渡により既存クリニックを買収する際の最も重要な財務的メリットの一つが、保険医療機関指定の遡及適用と診療報酬に関する各種施設基準の継承です。
新規開設では保険医療機関指定まで1-2ヶ月の期間を要し、その間は自費診療のみとなりますが、買収では指定の遡及により開業初日から保険診療が可能になり、収益機会損失を完全に回避できます。
保険医療機関指定の遡及適用の重要性
新規開設時の保険医療機関指定の課題
新規開設時には、保険医療機関としての指定を受けるまでに相当な期間と手続きが必要です。
指定申請から承認までの期間
保険医療機関指定申請から実際の指定まで、通常1-2ヶ月程度の期間が必要です。
この期間中は保険診療を行うことができず、自費診療のみの運営となります。
買収による指定遡及の劇的効果
開業初日からの保険診療開始
既存の保険医療機関を買収する場合、保険医療機関指定を遡及して適用することが可能です。
これにより、買収完了と同時に保険診療を開始でき、収益機会損失を完全に回避できます。
患者の経済的負担軽減
患者にとって、初診時から保険適用で診療を受けられることは大きなメリットです。
自費診療期間があると、患者の経済的負担が大きくなり、受診控えが発生する可能性があります。
収益機会損失の回避
月間1,000人の患者を診る診療所で、仮に1ヶ月間自費診療のみとなった場合、保険適用との差額により数百万円から1,000万円以上の収益機会損失が発生する可能性があります。
買収による遡及適用は、この損失を完全に回避できます。
診療報酬制度における施設基準継承の価値
施設基準が収益に与える直接的影響
保険診療の基盤が確保された上で、診療報酬制度における施設基準の取得は医療機関の収益性にさらなる向上をもたらします。
基本診療料の格差
月間1,000人の患者を診る診療所では、月額約30万円、年額約360万円の収益差となります。
在宅医療関連加算
在宅時医学総合管理料や特定施設入居時等医学総合管理料など、在宅医療に関する施設基準を満たしている場合、1患者あたり月額数万円の診療報酬を算定できます。
在宅患者50人を抱える診療所では、年間数千万円の収益源となります。
検査・処置関連の施設基準
各種検査機器や処置に関する施設基準の取得により、外注検査費用の削減と院内検査による診療報酬の増額効果があります。
例えば、心電図検査を外注から院内実施に変更することで、1件あたり1,000円程度の収益改善効果があります。
施設基準取得の困難さ
複雑な要件と手続き
施設基準の取得には、人員配置基準、設備基準、実績要件など、多岐にわたる複雑な要件を満たす必要があります。
書類作成だけでも専門知識を要し、準備に数ヶ月を要することも珍しくありません。
実績要件の達成期間
多くの施設基準では、一定期間の診療実績や症例数の蓄積が必要です。
新規開設では、これらの実績要件を満たすまでに6ヶ月から2年程度の期間が必要になる場合があります。
人員要件の確保困難
特定の資格や研修を受けた職員の配置が必要な施設基準では、該当する人材の確保が困難な場合があります。
特に地方部では、専門的な資格を持つ医療従事者の確保は極めて困難です。
保険医療機関指定遡及の具体的手続き
開設者変更に伴う手続き
開設者変更の迅速な提出
買収に伴う開設者変更の手続きを適切に行うことで、保険医療機関指定の継続が可能になります。
遡及適用の確認
地方厚生局との事前相談により、買収予定日からの保険医療機関指定継続について確認を取ることが重要です。
患者への影響最小化
診療の継続性確保
保険医療機関指定の遡及により、患者は買収前後で同じ保険診療条件で受診を続けることができ、医療の継続性が完全に保たれます。
窓口負担の一定性
患者の窓口負担額が変わることなく、買収による患者への影響を最小限に抑えることができます。
