【医療法人の多店舗展開】なぜ既存クリニック買収が新規開設より有利なのか

医療法人が事業拡大を図る際、多くの経営者が直面するのが「新規開設」か「既存クリニック買収」かという選択です。
近年、効率的な多店舗展開を目指す医療法人の間で、既存クリニックの事業譲渡による買収が注目を集めています。
その理由は、新規開設と比較して数多くの戦略的メリットがあるからです。
即戦力となる人材とノウハウの獲得
既存クリニックの買収では、経験豊富な医師やスタッフをそのまま引き継ぐことができます。
長年その地域で培われた診療ノウハウや運営システムも同時に手に入るため、新規開設時のような試行錯誤期間を大幅に短縮できます。
特に専門性の高い診療科目では、この人材とノウハウの価値は計り知れません。
確立された患者基盤の継承
新規開設では患者獲得に数年を要することも珍しくありませんが、買収では既存の患者リストと長年築かれた信頼関係をそのまま受け継げます。
開院初月から安定した患者数と収益を確保できるため、事業計画の精度が格段に向上します。
開業準備期間の大幅短縮
立地選定から内装工事、設備導入、スタッフ採用、各種申請手続きまで、新規開設には通常1年以上の準備期間が必要です。
しかし買収なら、これらのプロセスを大幅に短縮し、迅速な事業拡大が実現できます。
競合他院に先んじて市場シェアを確保したい場合には特に有効です。
地域における認知度と信頼の継承
地域住民からの認知度と信頼は、一朝一夕に築けるものではありません。
長年地域医療に貢献してきたクリニックを買収することで、この無形資産をそのまま活用でき、ブランド構築にかかる時間とマーケティングコストを大幅に削減できます。
内装工事費用と工期の大幅削減
既存クリニックでは、診療に必要な内装がすでに完成しているため、大規模な内装工事を行う必要がありません。
新規開設では、待合室や診察室、処置室、レントゲン室などの内装工事だけで数百万円から数千万円の費用がかかり、工期も2~3ヶ月を要します。
買収なら、必要に応じた部分的な改修のみで済むため、初期投資の大幅削減と早期開院が同時に実現できます。
医療機器・設備投資の軽減
CT、MRI、超音波診断装置など、高額な医療機器がすでに設置されている場合、新規購入による初期投資を大幅に抑制できます。
特に画像診断に力を入れているクリニックでは、数千万円規模の投資軽減効果が期待できます。
立地リスクの回避
すでに患者が継続的に通院している実績のある立地であるため、新規開設時の最大のリスクである立地選定の失敗を回避できます。
駐車場の確保状況や公共交通機関からのアクセスなど、実証済みの条件を確保できる安心感は大きなメリットです。
診療報酬の継続性確保
施設基準の届出や各種指定をそのまま引き継げることが多く、診療報酬の算定に必要な条件を満たした状態でスタートできます。
これにより、収益性の高い診療を開始直後から提供でき、事業の安定性が向上します。
医療連携関係の継承
近隣の調剤薬局、検査機関、高次医療機関との既存の連携関係を引き継げるため、患者にとって利便性の高い医療提供体制を維持できます。
この医療ネットワークの構築には通常長い時間が必要ですが、買収により即座に活用可能になります。
差別化された診療内容の確保
前院長が築いてきた専門性や特色ある診療内容を継承することで、地域内での独自のポジションを確保できます。
一般的な診療科目であっても、特定の疾患や治療法に強みを持つクリニックなら、競合優位性を維持できます。
成功のための注意点
ただし、買収には注意すべき点もあります。
隠れた負債の承継リスク、既存スタッフとの経営方針の統合課題、前院長の診療スタイルと異なることによる患者離れなどが考えられます。
これらのリスクを最小限に抑えるためには、財務・法務・業務の各面から徹底したデューデリジェンスを実施することが不可欠です。
医療法人の多店舗展開において、既存クリニックの買収は新規開設と比較して多くの戦略的メリットを提供します。
適切な案件選定と綿密な事前調査により、効率的で持続可能な事業拡大を実現できるでしょう。
